遠くへ離れてしまってから、気付いてしまったこの気持ち。何で気付かなかったんだろう。
――
俺がガイアを離れる前日、コーマは俺をグラウンドに呼んだ。そして、彼は言った。
「俺はずっとグランのことが好きだったんですよ」
ゴールの近くに転がっていたボールをリフティングしながら、他人事のようにコーマは呟いた。ふーん、と聞き流してしまいそうになるくらい、あっさりと。
「何で、もっと早くに言ってくれなかったの」 「言えるわけないじゃないですか」
コーマはリフティングを止めて、さっきまでとは全然変わり、切な気に言った。
「貴方はみんなの憧れで、目標で…孤高の華」
褒められているはずなのに、軽蔑されている気分になる。俺はずっと対等な立場で、仲間として接していたのに。様付けも、強制的に止めてもらった。コーマの敬語は止まらなかったけど。
「俺の気持ちと、みんなの気持ちは違ったんだね」 「え?」
不思議そうに俺を見るコーマに、一呼吸置いてから言う。
「一緒だと思ったのに。…ねぇ、コーマの“好き”は、どんな“好き”?」
ちょっとだけ誘うように、上目遣いでコーマを見る。ねぇ、ともう一度だけ急かすように言えば、コーマは、はぁ、と大きく息を吐いた。
「貴方は俺に襲われたいんですか?まぁ、いいです。俺の好きは、こういう好きですよ」
胸ぐらを掴んで引かれ、目を瞑った瞬間に、柔らかいものが一瞬だけ唇に触れた。
「…っん!?え?」
触れたものが何なのかを認識する前に、パッと離される。
「みんなの好きは“憧れ”。俺の好きは“愛欲”も交じってますから。それでは、失礼しました」
ペコッと丁寧にお辞儀をして、彼はグラウンドを去っていってしまった。
――
嗚呼、何であの時、コーマを止めてまで言わなかったんだろう。あの時を戻ってやり直したい…。好きだって伝えられたら、今はこんなに苦しくない。
「じゃあ、伝えてもらいましょうか?」 「コー、マ?」 真っ暗な夜空の下、居るはずのない影が現れた。
「何で居るの?」 「星が綺麗だったものですから」
コーマらしい返答に、ジワリと涙が溢れてくる。ボロボロと零れる涙を拭こうともせず、俺はコーマに飛び付いた。
「コーマ、コーマっ…会いたかったよ…」
泣きじゃくる俺の頭を、コーマが優しく撫でる。それが心地よくて、離れることが出来ない。
「いつまでも、子供みたいですね、貴方は」 「相手がコーマだからだよ」 「それで、俺に伝えたいことって何ですか?」 「わかってるくせに」
苛めてくるコーマが恨めしくて仕方ない。もう、と睨み付けながら、ふと、思った。…何でコーマは俺の思ってることがわかるの?
「貴方のことでわからないことはありませんよ」 「またぁ…変態。透視しないでよ」 「何とでも言って下さい」 「やっぱり、同じだった。好きだよ、コーマ」 「このタイミングでですか?」
そう言いつつも、コーマはとても嬉しそうに笑った。…今、言えたことで、一気に軽くなった。だいぶ待ったな、なんて、コーマの方が待ってるんだけど。いいんだもん。
「離さないで、いてくれる?」
コーマは、むっと考え込む。そういえば、いつの間にか涙が止まっていた。 「そういうわけにもいきませんね、残念ながら。俺は日本代表に選ばれたわけではありませんし、なんせ、ウルビダが怒り出しそうですしね」 「そっか。じゃあ、また会いに来てね」 「えぇ、毎日来ます」
じゃあ約束、と小指を差し出す。絡めた指から、コーマの温もりが伝わってきた。やっぱり、大好きなんだな。
「それでは、さようなら、ヒロト」 「またね」
意味ありげな笑みを浮かべたコーマに手を振った。夜闇に消えたコーマを見送る。ふと見上げた空には、星が輝いていた…。
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