「俺も幸せになりたいなぁ」
ソファに座ってテレビを見ていたヒロトが、ぼーっとして言う。紅茶を淹れながら、俺がテレビを見ると、一人の女性が純白のウェディングドレスを身に纏い、幸せそうな笑みを浮かべているところだった。俺はそれを見て、一人で納得する。ヒロトはそういうありふれたものに弱いのだ。
「ウェディングドレス着て、永遠の愛を誓って、幸せに暮らして…ずーっと一緒に居るの」
返事をせずにヒロトの話を聞いていたので、ヒロトに、ちゃんと聞いてる?と言われてしまった。
「聞いてますよ。紅茶、レモンとか入れますか?」 「いらなーい。…あ、でも、恭馬は要る」 「なら、紅茶のついでに行きます」 「俺的には、恭馬のがメインだけど?」
ニヤリっ俺を見て言ったヒロトに、俺も笑い返す。二人分のカップに紅茶を注いで、お茶の準備が整っているトレーに乗せた。
「恭馬は、思わないの?」
トレーを運んでいると、ヒロトは呟いた。その表情はどこが寂しげで、一瞬動きが止まってしまった。
「思わないわけがありません。ほら、紅茶です」
ヒロトの隣に座って、紅茶を渡す。ヒロトが一口飲むのを見てから、自分も一口飲んだ。
「ヒロトは、ウェディングドレスを着ないと、永遠の愛を誓えないと思っているんですか?」 「え?」 「ヒロトの言う、幸せな暮らしって何ですか?」 「えと、それは…」
茶色く揺れる紅茶を見つめて、ヒロトは口ごもってしまう。俺は一旦紅茶をテーブルに置いて、ヒロトの膝の上で握り締められていた右手に自分の手を重ねた。
「いつも言っていますが、俺はヒロトが誰よりも好きで、誰よりも愛しています。ヒロトは、俺に想われるのは嫌ですか?」 「嫌じゃないよ。むしろ嬉しい。俺も恭馬が大好きだもん」 「ヒロトは俺と居て、幸せですか?」
俺はヒロトの瞳を見つめてたずねた。また黙り込んでしまうだろう、と考えていた俺の予想に反して、ヒロトはすぐに、うん、と答える。
「俺は、恭馬と居て、すっごく幸せだよ」
そう言って、ヒロトは微笑んだ。
「それ以上、幸せになりたいですか?」 「…ううん。今で十分幸せだよ。でも…」 「でも?」 「恭馬の隣でウェディングドレスを着て、恭馬と永遠の愛を誓って、恭馬と幸せに暮らして…恭馬とずっとずっと一緒に居たいな」 「俺も、一緒です」
俺はゆっくりとヒロトの頭を撫でて、一瞬だけ唇を重ねる。俺も、これ以上の幸せは無いと思っている。いや、望んではいけない。
「恭馬は、幸せ?」 「俺は、ヒロトが幸せなら、とても幸せです」
ヒロトは俺の額にコツンと自分のをあてて、幸せそうに笑った。
「それなら、俺も幸せ」
二人で少しの間見つめあって、ふっと顔を綻ばせる。今が一番幸せ。俺はそう思った。
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二人には、本気で幸せになってほしい
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