「…で、何でこんなことになってるんですか…」
俺の膝の上に頭を乗せたヒロトに、ため息混じりで聞いた。
「俺が恭馬に頼んだからだよ」
ニコニコと笑って、答えたヒロトはゆっくりと目を閉じた。涼しい風が吹く木漏れ日の下で、寝てしまわないわけがない。俺はヒロトの柔らかい緋毛を撫でる。 一通り和んでから、読書でもしようかと、隣に置いていた、ハードカバーの洋書を手に取った。
辺りには二人分の呼吸の音と、俺が本のページをめくる音しかしない。時折、強く吹く風が、少し冷たくなってきた。寒くなりそうだから、そろそろ帰ろうか、と思い、本から視線をヒロトに移す。
「帰るの?」 「起きたんですか?」 「うん。だって、寝てないもん」
俺はヒロトの返事にポカンとしてしまった。
「絶っっ対に、寝てると思っていました」 「絶っっ対に、気付いてないと思ってた」
ヒロトはにやにやしながら言った。ヒロトが起きていることに気付かずに本を読み続けるとか、一生の不覚です、なんて沈んでいると、ヒロトが、それにしても、とうっとりとしたような口調で言う。
「かっこよかったなぁ…」 「だ、誰がですか」
言うまでもないよ、なんてヒロトは俺に、意味ありげな視線を送ってくる。
「ヒロトを暇にさせてしまいました」 「全然俺は暇じゃなかった」 「へ?」 「だって、真剣に英語の本読んでる恭馬がかっこよすぎて、ドキドキしてたから」
ほんのりと頬をそめて言うヒロトの頭を優しくすいてやる。実は、俺が読んでいたのは、英語ではなく、フランス語の本だったりするのだが、ヒロトが可愛いから、もう何でもいい。
「恭馬、帰る?」 「ええ、寒くなる前に帰りましょう」 「帰ったら、英語教えてくれる?」 「はい。もちろんです」
やっと起き上がったヒロトの手を取って、立たせる。右手でヒロトの手を握り、左手で本を持った。 帰ったら、すぐにハーブティーを淹れて、英語の本を揃えなくては。俺は橙に変わり始めた空を見上げた。
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のんびりしたいべ
恭ヒロは常に通常運転です←
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