おひさま園の裏には、ちょっとした薔薇園がある。俺はそこでぼーっとするのが好きだ。ベンチに座って、日向ぼっこをして、いろんなことを考えて、ときにはお昼寝なんかもする。今も、ゆっくりとうたた寝をしていた。
「お姫様、おやつですよー?」 「んぅ…きょーま…?」
カタリとテーブルに何かを置く音がして、体を起こす。ゆっくりと目を開けると、テーブルには可愛らしいスウィーツとお気に入りのティーセットが置かれていた。
「本日のおやつは、ベリータルト・アップルパイ・ミルクレープ・ベイクドチーズケーキにアールグレイです」 「アップルパイとミルクレープ」
まだ半分寝ぼけたまま、いつものように食べたいスウィーツを恭馬に言う。コポコポとティーカップに紅茶が注がれる音が心地よい。
「はい、わかりました。…よく寝起きで食べられますね」 「恭馬のならいつでも」 「それは嬉しいですね」
にこりと綺麗に笑った恭馬にきゅんとした。 うたた寝をしていたベンチから、テーブルの横のチェアに移動する。そんなに距離があるわけではないけれど、ほんのり寝ぼけているからか、少しふらふらする。
「大丈夫ですか?」 「うん。だいじょぶ」 「無理しなくていいんですよ?」 「恭馬のケーキは宇宙一だから、それを食べないなんてもったいないもん」 「ありがとうございます。なんか、ヒロトに言われると照れますね」
そう言って、恭馬は再びふわりと微笑んだ。何だか、最近の恭馬は騎士というよりも、執事の方がしっくりくる気がしてきた。
「アップルパイとミルクレープの用意が出来ましたよ。今日はケーキが甘いので、紅茶は少し濃いめに淹れてあります」 「わぁーい!いただきますっ。……ねぇ。恭馬、何だか執事みたい」 「イエス・マイロード」 「何か違う」 「間違ってはいないと思いますけど」 「うん。何かおしいよね」
某悪魔で執事の人が出てきた気がするけど、まぁ、どちらかといったら、恭馬はそっちだよね。ナイツ・オブ・クイーンのセバスチャンって感じはしないかな。
「狐で執事ですから、といったところですか?」 「確かに」
ものすごくど真ん中なことを言った恭馬に、ついついふっとふいてしまう。
「俺もヒロトと一緒にティータイムにしましょうか…」
恭馬は俺のすぐ隣の椅子を引いて、そこへ座った。そして、アップルパイを頬張った俺をじっとみつめる。
「クリームついてますよ」 「え?」 「ほら、ここです」
何も悪びれずに、恭馬は俺の唇の端を舐め、そのまま口付けてきた。あぁ、もう恥ずかしいったらありゃしない。…でも、嫌いではない。
「我ながら、美味しいですね」
恭馬のペロリと唇を舐める仕草がなんとも妖艶で、こちらがどきどきしてしまう。
「まぁ、それ以上の美味しいものを俺は知っていますが」
薄く目を開いた恭馬は俺をチラリと見る。それから、ふふ、と楽しそうに笑って、ベリータルトにフォークを伸ばした。
「もう、恭馬わけわからない」 「今さらですか」 「…思ったんだけど、俺の方にクリーム系ないじゃん」 「今さらですか」
もう、と呟きながら、俺はミルクレープにフォークが刺さる感触を楽しんでいた。
「やっぱり、恭馬のスウィーツと紅茶は宇宙一だよ」 「ありがとうございます」 「明日はミルフィーユがいいな」
ミルクレープを口に運んで、恭馬にお願いをした。ふわりとした、優しい甘さが口の中いっぱいに広がる。
「イエス・マイロード」
恭馬は恭しく微笑んだ。
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恭馬さんのスウィーツは宇宙一なんだろうな、と私が紅茶を飲みながら思った もともと、ダンスネタにするはずだったのに
甘いな… 今さらか
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