「ヒロト、首のとこ、でっかい蚊に刺されてるッポ」
ルルの言葉に咄嗟に、右手で左の首筋を押さえた。しかし、その手は玲名ちゃんによって、あっさりと取られてしまった。
「ほう。ずいぶんと、大きい蚊に刺されたようだな。しかも、こんなに寒いのに、まだ蚊は居るのか」
玲名ちゃんには、全てお見通しのようでにやりと笑われた。
「絆創膏、要るぅ?」 「いる「要らないだろう。蚊に刺されたくらいで」
せっかくの布美ちゃんの申し出を、玲名ちゃんが断ってしまった。俺のキャプテンの威厳って…。
「うわ、大遅刻ですね。すみません」 「ヒロト、季節外れの大きな蚊がやって来たぞ」 「れ、玲名ちゃんっ」
コツンと肘鉄を肩に食らって、にっこり微笑まれる。何だかんだ、玲名ちゃんはとっても優しい。なんて、本人に言ったら殺されるだろうけど。
「おはようございます、ヒロト」 「おはよう、恭馬…じゃなくて。ちょっとこれ、どうすんのさぁ」
赤くなったところを指差した。けど、恭馬は全く気にしてないようで、楽しそうに言った。
「いいじゃないですか。俺的には万歳です。誰にも奪われなくて済みますし。何より、名前を書いておけるんですから」
確かに、嬉しくないと言ったら嘘になる。でも、ちょっと照れ臭い。複雑な気持ちで恭馬を見上げる。
「あぁ、そういえば」 「え、ちょっと…」
恭馬がにっこりと笑いながら、俺の胸元に手を伸ばした。えりを広げられると、鎖骨の下辺りにもう一つ赤い印が見える。
「ここだけじゃなくて、たぶん、脇腹の辺りとか、言えないようなところにもついてると思います。まぁ、お互い様ですよ」 「え?」
キョトンとした俺に、恭馬は突然ユニフォームの上を脱いだ。くるりと背中を向けられると、肩口と中央辺りに赤い痕がついている。
「わかりますか?これ、貴方がつけたんですよ?たぶん、気付いていないとは思いますが」 「ぜんっぜん。今の話を聞かなかったら、確実に嫉妬してたところだよ。俺以外の誰かを抱いたのか、って」 「ヒロトに嫉妬されるって、なんかときめきますね」
笑顔でちょっと危険なことを言う恭馬に、ついつい苦笑いをしてしまう。でも、何だかすごく嬉しかった。
「俺って、愛されてる?」 「もちろん。俺からすごく愛されてます」 「幸せ…だなぁ」 「ヒロトは、みんなから愛されて、みんなを愛して下さい。でも、俺だけはみんなと違うように愛して下さい」
約束、ですよ?と薄く目を開いて恭馬は悪戯っぽく笑った。瞳の金色に引き寄せられて、目が離せなくなる。
「きょ、ま……んむっ」
ぐいっと襟を掴んで引かれて、強引に口付けられた。背中に腕を回すと、素肌から恭馬の体温が伝わってくる。
「ふぅ、ぁ…」
ゆっくりと唇を離されると、銀糸が二人を繋ぐ。
「ヒロト…」 「…恭馬」
目のやり場に困って、恭馬と目を合わせると、ばっちり視線を絡められた。逸らそうにも逸らせなくなってしまった俺の瞳は、恭馬の金を見つめ返す。
「さっ…寒そうだから、着ようよ…」
無理矢理視線を逸らして、地面に脱ぎ捨てられたままのユニフォームを掴んで渡した。
「変なところでヒロトはウブですよね」
ユニフォームに袖を通しながら、恭馬が呟いた。
「変なところって…」 「だって、夜はけっこう積極的じゃないですか」 「違うでしょ!」 「あぁ、夜だけではありませんよね」 「そうじゃなくてッ!」
ふふふ、と楽しそうに笑う恭馬とのやりとりに、ちょっと幸せを感じた。やっぱり、恭馬が好きなんだな、なんて再確認してしまう。
「恭馬、」 「はい?」 「痕、付けてもいいけど、目立たないとこにしてね」 「えー」 「えー、じゃなくて。だったら、痕も付けないように、慎重に!!って言うよ?」 「あぁ、その方が困りますね」 「じゃあ、そういうことで」 「覚えていたら、そうします。俺には、付けてもいいですよ。むしろ、付けて下さい」 「ビンタでもしてあげようか?」 「よろこんで」
はぁっ、とため息をついた。恭馬にではなく、自分に。変態的なことを言っていても、恭馬がかっこよく見えてしまうなんて。
「大好き、恭馬」 「ありがとうございます。愛してます、ヒロト」
微笑んだ恭馬にきゅんとした。 やっぱり、ちょっと見えるくらいのところに残してくれてもいいかも、なんて一瞬思ってしまった。
******
お久しぶりです こんなに寒くなっても、 ガチで蚊は居ますマジで
甘いぜよ! 途中から姿を消した ジェネシス組 空気を読んであげたんだと思って下さい
|