「ヒロト、ケーキ焼き上がりましたよ」
オーブンから焼き上がったシフォンケーキを出しながら、ソファに寝転がっているヒロトに声をかける。でも、いつもなら飛び起きてすっ飛んでくるのだが、今日は起き上がりもしなければ、返事もしない。
「ヒロトー?」
シフォンケーキをとりあえず置いて、ヒロトの顔を覗き込む。すると、ヒロトはすっかり眠ってしまっていた。
「こんなところで寝ていたら、風邪をひきますよ」
そう言って、少し体を揺すってみるが、ん、と小さく唸るだけで、起きる気配は全くない。頬をつついてみたり、瞼に軽く触れてみたりもしたが…まだ起きない。
「仕方ありませんね」
ふぅっと息を吐いて、すっかり寝入っているヒロトを姫抱きにする。ぐっと近付いたヒロトの無防備な寝顔に、思わず鼓動が速くなる。その邪な気持ちを追い払うように、俺はヒロトを部屋に運んだ。
「んー…きょ、ま…?」 「あ、起こしてしまいましたか?」
ベッドに寝かせて、毛布をかけようとしたら、ヒロトに袖を掴まれた。
「だいじょぶ」 「あぁ、ケーキ焼けましたけど…うわっ」
ヒロトに勢いよくベッドに引きずり込まれてしまった。これでは、せっかく焼きたてのケーキが冷めてしまう。
「ケーキ、あとでいい。だから、今は…」
そこで言葉が切れたと思ったら、ヒロトはまた眠ってしました。そんなヒロトの可愛らしい寝顔を見ていたら、自分もいつの間にか深い眠りについてしまっていた…。
―その頃 in キッチン―
「あー、美味そう」 「それ、さっき恭馬が焼いていたぞ、由宇」 「なんだ、聖かよ…」 「なんだとは何だ」 「…これ、食ってもいいと思うか?」 「後で恭馬に叱られても、俺は知らないぞ」 「いいだろ。あいつなら、またすぐに焼ける」 「…半分ずつだからな」 「聖も共犯だな」
恭馬が起きたときには、すでにシフォンケーキは跡形もなく消えていました。
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