「あ、やべ、傘忘れた」
さっきまではあんなに晴れていたのに、と本屋から出た俺は小さく呟いた。そういえば、天気予報士が午後から雨が降るとか言っていたような。風介にも傘を持って行けと言われていた。今更になって持って来ればよかったと思った。雨が止むまでは仕方ない、また立ち読みでもしていようと思っていると、ポケットの携帯電話が鳴り出した。パカッと開いたら、ディスプレイに素っ気なく、風介、と二文字だけ標示されていた。それだけ確認して、俺は通話ボタンを押す。
「もしもし?」 『雨、降ってきただろ』 「あぁ」 『傘を持たずに出掛けただろう』 「あぁ」 『だから、私はあれだけ傘を持って行けと言ったんだ』
電話越しに風介の怒った顔が浮かんで、思わず笑ってしまう。
『何が可笑しい』 「風介が怒ってるなー、ってそれだけ」 『……何でもいい。迎えに行くから、どこに居る?』 「駅前の本屋」 『分かった。あと1分くらいで着く』 「は?」 『あー、居た居た』
風介はその言葉を最後にブチッと電話を切ってしまったが、横断歩道の向こうに真っ赤な傘をさした、淡い水色が見えた。信号が青に変わると、その水色は小走りでこちらに向かってくる。
「風介、」 「だから、傘を持って行けって言ったんだ」 「ありがとな」
頬をぷくっと膨らませた風介にお礼を言って、にっと笑う。でも、風介は何であんなに早く着いたんだ…?
「到着、早すぎねぇか?」 「私には、お前が暇を潰す場所などわかっている」 「…そう、か。んで、傘ありがとう」 「それが…」
さっきまで、勝ち気でいた風介がしゅんと小さくなる。む?と下から覗き込むと、開き直ったように言った。
「傘忘れたんだが」 「はぁ?意味ねぇじゃんか」 「それが迎えにきてくれた人に言う言葉か?」 「…わるい」 「仕方ないだろ、急いでいたんだ」 「さんきゅう、な」
むすっとしたままの風介に素直に誤って、どうしようかと考える。
「じゃあ、雨が止むまでまた本屋で待つか?」 「嫌だ。私はお前のように暇ではないし、本屋でそんなに時間が潰せるとは思わない。それに、当分雨は止まないらしい」
だからこの中に入れ、て風介はまだむすっとしたまま言った。それだと相合傘じゃんか。
「帰るぞ」
そう言ってそっぽを向いた風介に腕を引かれた。…別に悪くないかもしれない。
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最近は晴れが多い気がする けど、雨もたまにあるよね
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