あー、このまま死んだら嫌だな。
体温計を脇に挟みながら思った。今、何年ぶりかの熱を出して寝込んでいた。ふぅ、と熱のこもった息を吐いたら、ピピっと無機質な音がする。
(とうとう、俺の風呂の温度か)
40℃と表情された体温計を睨んで、サイドテーブルに体温計を置く。
酷い頭痛と身体のダルさに動くことすらできない。動くことが出来たら今すぐヒロトに会いたい。そんなことを思っていたら、バタンと勢いよく扉が開く音がした。
「恭馬っっ!」
とうとう幻聴が…と聴こえた気がしたヒロトの声に苦笑を浮かべる。閉じた視界が明るく
なり眩しさに目を開けると、目の覚めるような赤が飛び込んできた。
「ヒロ…ト?」
幻覚まで…と思ったが、どうやら幻覚でも幻聴でもないようだ。
「恭馬、俺だよ。ヒロトが来たからね」
ギュッと手を握ってくれる温もりは、決して幻ではない。
「ありがとう、ございます…」
俺はしっかりとヒロトを見てから、深い微睡みに落ちた。そのときは、さっきまであった酷い頭痛と身体のダルさは消えていた。