「あ、恭馬。先に帰ってて」

そんなことを言われても、先に帰れるはずもなく、俺はいつもの笑顔で答えた。

「貴方の用事が終わるまで待ってますよ」
「え、いいよ。先に帰って」

あからさまに不服そうな表情を浮かべるヒロトにもう一度言う。

「俺、暇なんで。気にしないで下さい」

大丈夫。まだ、イラついているのは顔に出てないはずだ。じっとヒロトを見つめていると、一瞬だけ迷った様子を見せたものの、眉間にシワをよせて、さっきよりも大きい声で言われた。

「だから、先に帰ってて!!」
「だから、俺は大丈夫なので、待ってますよ、って」
「う、むぅ…駄目!!先に帰って!」

ヒロトには珍しく、あまりにも凄い剣幕で言われてしまい、さすがの俺でもちょっと怯んでしまった。

「じゃあ、いいです。…帰って来たら、俺の部屋に来てくださいね」

俺がそう言ったら、ヒロトは少しは後ろめたいらしく、うつむいて服の裾を握りしめている。危うくヒロトの頭に手が伸びてしまいそうになって、頑張って堪える。なるべく冷たい人になれるように、俺はさっさとヒロトに背中を向けた。

――――

「…遅い」

俺が家に着いてから、一時間くらいが経過した。ヒロトが居ないと分かっていて、くつろげるわけがなく、部屋の中をうろうろしている。すると、ドタドタと走る足音が…

「ヒロトっっ!」

叫んで扉を開いたら、そこにはヒロトではなく、君之が立っていた。彼と目線を合わせるためにその場にしゃがみこむ。

「どうしたんですか?」
「ヒロトが、テラスに出ろだって」
「ありがとう、ございます」

はやる気持ちを抑えながら、俺はテラスに駆け出した。ヒロトは無事に帰って来られたのか。一人で居て何か危険なことにはならなかったか。心配で心配で仕方ない。

「ヒロト?」

テラスに出て名前を呼んでみたものの、人の気配は全くしない。でも、君之が嘘をつくとは思えない。ふらふらしていたら、突然後ろから抱き着かれた。

「きょーまっ」

すまなさそうな声で俺を呼んだのは、間違えようもない。俺がずっと心配していたヒロトだ。

「ぁ、ヒロト…」
「ごめんね。心配かけて」

ぎゅうと抱き締められて、ヒロトの暖かさが伝わってくる。水平線に浮かぶ太陽はもう半分沈んでしまった。

「心配かけたと思うなら、しないで下さい」
「ごめん」
「で、何をしていたんですか?」
「…えっと、テーブル」

俺から離れたヒロトは、テラスに置かれているテーブルを指差した。そこには可愛らしくラッピングされた、黄色い袋が置いてあった。

「あれ…が?」
「恭馬に、プレゼント。だから、言えなかったの」

ごめんね、ともう一度謝る。可愛すぎて仕方ない…そう思って、俺は正面からヒロトを抱き締めた。

「ありがとうございます、ヒロト」
「うん」
「でも、もう心配はかけないで下さいね」

笑いながら言ったら、ヒロトもくしゃりと笑った。
心配なのは貴方が大切だからなんですよ。大好きですよ、ヒロト。



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