「勉強教えろ、恭馬」
そう言って由宇が俺の部屋に上がり込んで来たのは、今から遡ること二時間。ひたすら、わからん、と喚く由宇にさすがの俺も頭を抱えてしまう。
「だから、地球が自ら回転するのが自転。地球が太陽の周りを回るのが公転。わかりますか?」 「何で」 「それは決めた人に聞いて下さい」
さんざん絵を描いたり、図を見せたりして、やっと少しは分かってくれたようだ。ふっと息を吐いて、お茶を啜る。
「それにしても、何で俺なんですか。天体なら、ヒロトの方が得意じゃないですか」 「あいつはどっか出掛けてる」 「玲名は?」 「今、機嫌悪い」 「半蔵」 「お前しか言葉がわからない」 「君之かルル」 「まだ知らない」 「他は?」 「全員忙しいとさ」 「で、自動的に俺しかいない、と」
そうだ、と頷く由宇に苦笑いしながら言った。それから、自分の後ろにあるミニ冷蔵庫を開ける。
「ちょっと休憩しましょうよ。タルトとチーズケーキ、どっちがいいですか?」 「甘くない方」 「うーん…どっちも甘くないように作ったんですけど。じゃあ、俺がタルト食べたいので、チーズケーキでいいですか?」 「なんでもいい」
近くの小さい戸棚からケーキに合うお皿とフォークを出して、ケーキを乗せる。そのチーズケーキが乗った方を由宇に手渡した。すると、彼はよほどお腹が空いていたのか、受け取った瞬間に即座にパクリと一口食べた。
「大丈夫、ですか?」 「これ、お前が作ったのか?」 「え?あ、まぁ…」 「ふーん…美味い」
ばくんと無表情でケーキを頬張る由宇を目の前に、何となく幸せを感じる。
「あ、そういえば、何で俺が最後何ですか?」
俺のその問いかけに、今までひたすら動いていた手が止まった。少しの沈黙の後に、由宇が気まずそうに口を開いた。
「好きな奴にカッコ悪ぃトコはみせらんねぇだろ」
そんな言葉が返ってきて、ついくすりと笑ってしまう。
「馬鹿ですね。貴方がカッコ悪いことくらい知ってます」
だから、今度は一番に来てください、と言ったら、プライド的に無理だ、と言われてしまった。でも、次は最初に来てくれると思ってる。ふふ、と笑ったら、タルトの上のラズベリーが一つ、お皿上に落ちた。
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ケーキ食べたい 糖分不足だん…
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