「…っぁ…」

一瞬ギョッとして立ち止まる。後ろを歩いていた恭馬の方から聞こえたような…。まさかと思って振り返ってみると、何故か恭馬はしきりに足を動かしていた。

「…どしたの?」
「ぅ…足、つっちゃって…」

つっちゃったらしい右足をぶらぶらしてみたりしている恭馬が面白くて、不謹慎ながらも、ぶっと吹き出してしまった。

「何ですか。こっちは必死なんですよ?」
「あははっ…ごめんごめん。だって、恭馬が困ってるの、滅多にないじゃん。…おんぶでも、しようか?」
「大丈夫です。貴方におんぶしてもらうなんて、プライド的に無理です。…あ、治った」

そう言って恭馬は、つんっとおそるおそる自分の足に触れてみた。その行動があまりにも可愛くて、屈んだ恭馬の背中に抱きついた。

「う゛…何ですか」
「なんか、恭馬可愛い」
「はいいっ!?ば、馬鹿じゃないですかっ?」

下を向いたまま叫んだ恭馬は小さくわなわなと震えた。

「貴方に可愛いとか言われても、冗談にしか聞こえませんしっ、可愛くなんてありませんしっ…」

もう、馬鹿…と小さく呟いた恭馬は耳まで真っ赤で、滅多にこんなの見られないな、なんて楽しくなってきた。

「余裕のない恭馬も、いいな」
「いいな、じゃありませんよ!!」
「たまには逆でもよくない?」
「よくないですっ!!!!」

そんなに嫌なのか、恭馬はガバッと効果音がつきそうなくらいの勢いで振り返った。

「俺をからかうのは、そんなに面白いですか?」
「うん」
「…お仕置き、決定ですね」

いつもの、何を考えてるか分からない表情に戻ってしまった恭馬は言った。あ、ヤバい。そう思った時には既に遅く、恭馬は逃げ出そうとした俺の手首を掴んで引き寄せる。

「さっきまでの強気はどうしたんですか?」

恭馬だって、と言おうとしたけれど、その前に口を塞がれてしまった。可愛い恭馬も好きだけど…

「やっぱり、いつもの恭馬のが好きだな」

唇を離されてから呟いた。それが恭馬に聞こえたかは分からないけれど、彼は小さく微笑んだ。



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