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仕事がかなり減ったな、と折に触れて思う。比較対象はもちろん最近ではなく、もう二年以上も前のこと。コクーンで、広域即応旅団として働いていた頃の自分。あの頃は、警備軍の代表も兼任していたから本当に忙しかった。警備軍規模で何かする場合はシドが責任者にならねばならないし、騎兵隊が動くにはシドの決裁が要った。今は違う。基本的に現場の判断優先のため、兵士たちの派遣を決めたらあとは報告を待つのみだ。まあもちろん、実際派遣した先で対処しきれないレベルの問題が発生すればシドたちだって動かなければならないが、それにしたってコクーンにいた頃とは比べるべくもない。

今日も今日とて、開拓中に発見したモンスターの討伐のため兵を差し向けたところだった。問題は起きていないようだが、執務室にずっと座っているというのも性に合わないのでシドは操縦室にいた。ここだとルカが少々遠いのが気がかりだが、見つめていたって意識を取り戻すわけじゃないというのはさすがにもうわかっていた。それに遠いと言ったって、せいぜい数分の距離だ。自室は同じ階層にあるのだし。

目の前のモニターには、引き伸ばされた地図が映しだされている。これはあの最後の日、居なくなる直前にルカがリグディに託した地図を元にして最初作られた。ファングという、ルカ以上に粗暴でいい加減な彼女が書いたとは思えないほどよくできていたため、それがあったことで下界に降り立った当初はかなり役に立った。その後微妙な歪みを矯正し、今でも開拓した地点を記し広げ続けている。

ルカはまだ目覚めない。まだ身動ぎひとつしない。もう二年以上が経っていた。それでも諦めてはいない。諦めてはいなかったが……それでも、長くなるにつれ希望はなくなると言われていた。眠っていることがルカの普通になってしまうと、次第に脳が目覚めようとする間隔が開いてくるのだと。しかしシドはそれを話半分に聞いていた。何を言うか、ルカは未だに一度も目覚めようとなどしていないのだ。元から目覚めようとしていないものが、より悪くなることはない。

……そう、これ以上悪くなることは。そう言い聞かせて、シドは心の軋むのを耐える。
未だに罰だというのか。まだ足りないというのか。いつまで続く?永遠?……彼女は、生きているのに。

「閣下!!」

突如、声がシドを現実に引き戻した。
あまりにも慣れ親しんだ声なので、振り返らずとも主はわかっていた。が、あまりにもその声色が切羽詰まっていたのでシドは振り返る。それは当然リグディだった。あまりにも焦った様子なので、兵を派遣した先でトラブルが起きたのかと思った。万が一にも市民や兵に何かあったのだとしたら、どうにかしなければ。
そう思って振り返ると、想像以上に彼はひどい顔をしていた。

「……どうした?」

あまりにも様子がおかしい。彼らしくない。彼がここまで息を切らせるなんてことは。シドといいリグディといい、上に立つ人間は必要以上に焦ったりしてはならないのだ。全体の指揮を揺らしてしまうから。リグディはそれをわかっていて、だからどんな彼がこんなにも必死に駆けずり回るのなんて、相当な事件だと思えた。

嫌な予感に支配された感情は、しかしリグディの次の言葉で思い切り遠くへ吹き飛ばされた。

「生体情報モニタがおかしいって……医師が連絡を!!突然乱れたかと思ったら、測定不能になったって……!医師も今、急遽向かってます!」

「……それは、つまり、」

「だから、とにかく異常があったんですよ!!心臓発作でも起こしたか、あるいは……」

目覚めて、自分で測定器を取り去ったか。
ぞわりと、背筋を悪寒が走った。急死した?もしくは……目覚めた……?

根拠なく希望的な観測ができないくらいには、シドは既に追い詰められていた。それでもシドは部屋を飛び出した。ルカに何かがあったことは事実だった。心停止したとしても、すぐなら蘇生させられる。だから急がなければ。死んでしまったら、もう二度と取り戻せない呼び戻せない。全て潰える。希望と呼べるもの全て霞となって消えてしまう。
たった数分の距離だしと、操縦室にいたことを悔やんだ。隣の執務室にいたならもう彼女に駆け寄れているのに。たった数百メートルがこんなにも遠い。執務室の鍵を開け、ドアを開く。有り得ないほどまごつきながらも、すぐ私室への鍵も開けた。

ルカ!!」

ドアの開いたそのすぐ先、果たしてルカはそこにいた。かつて眺めを気に入ってそうしていたように、窓に張り付いて外を見ているのはシドのよく知る後ろ姿。

ずっとそれを待っていた。
誰より大切な人間が、そこにいた。

「あ、はいルカさんは起きてますともー」

ゆっくりと振り返る彼女は、いつもの軽快な笑みを口元に浮かべている。それから僅かに眉根を下げた。

「あれ?先輩、どしたの?」

彼女が気にするくらいに、自分は酷い顔をしているのだろうか。そんなことを思いつつも、シドは一息に駆け彼女を抱きしめた。ずっとずっと、待っていたのだ。
誰よりも。




titled by 失踪宣告
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