夢主の名前を入力してください。デフォルトだと“ルカ”になっています。
彼女は仕事上の理由で上司に呼び出され、補佐官を廊下に待たせ上司の執務室に足を踏み入れた。
自分がこの上司に可愛がられている――つまり目を掛けられていると知っていた。だから自分一人だけ呼び出されるのもいつものこと。
そして入った瞬間。
ぐらりと、身体が横に傾いだ。
「ん、ぐっ」
世界は完全に暗転する。
『ねぇジル見て見てっ、成績がぁ!すごいことに!!』
――見えてるわよ、そんなに大騒ぎしなくても。
『先輩のアホ!もういい知らん、ジルと行くから!』
――何よ私は二番手なわけ。
『ジル、あのね、先輩とね……』
――…………、おめでとう。
「……う」
「目が覚めたか」
顔を上げると、誰かが立っていた。目が光に慣れてくると、それが上司の顔だと知る。彼女は慌てて立ち上がった。
「すまんが入れ違いになってしまってな。“大佐に命令は説明しておいたから”、彼女から受け取ってくれ」
「は、い……え、なんで
ルカに」
どうしようもなく不満。苛立つ。なぜ?なぜ
ルカに。
私の方が優秀じゃない、私の方が真剣じゃない、だってあの子もうすぐいなくなるのよ、私の手の届かない空の彼方に行ってしまうのよ!!
彼女は知らなかった。
自分が突然倒れた理由にも、その間に何をされたのかも、自分の中で何かが決定的に変化してしまったことにも。
それは大きな変化ではなかったから。ほんの少しだけ、一箇所だけがズレるみたいな小さな差異に過ぎなかったから。
そしてその夜、彼女は友人の家を訪れた。
「馬鹿な男よねえ、あんたって」
自分が何をしているかわかっていたかって?それは誰にもわからない。友人にも、彼女自身にも。
「そして永遠に、逃げられないんだわ……」
グラスを傾ける指が震えた。理由はわからなかった。ただ、少し怖い。
「このままなら、ずっとよ」
解放されたければ道はもうひとつしかない。彼女にできることはそれしかない。
彼女は微笑んだ。それはとても彼女らしい、けれど本来なら友人には見せるはずのない酷薄で冷たい笑みだった。
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