Act.48






地平線は海も陸も果てなき闇となって。
海には血みたいなものが満ちていて。
命などもう、どこにもなくて。

そんな焦土に立つ己を、想像できる?

誰の記憶も、もう己の中に無い。名を呼ぶ声が思い出せない、だから己の名もわからない。
もう誰もいなかった。





飲み会、佳境。
最悪の一言に尽きる様相だったが、いつもよりちょっと酷いだけだ。よくあることである。悲しいことに。

「やだもう、換気してよ。世を儚む臭さ」

「無駄だと思うんだがなー」

「少なくとも気分はマシになるでしょ……とりあえず水汲んでくるわ」

そう言って立ち上がったナツメは、バケツに汲んだ水を片っ端から死にかけの阿呆どもにぶっかける。ブリザドを使って氷を混ぜたことを否定はしないが、証拠はない。ので後々大騒ぎされても問題ない。

「うっぎゃああああ冷たいいいい熱いいいいぃぃぃい焼けるぅぅぅ!!」

「死ぬなら見えないとこでやってよねぇ……こんなアホな死因でも見殺しにしたら怒られるんだから……」

「4組出身者のくせに仲間に冷たいぃぃ……」

「どこ出身でもおのれらには冷たいわ」

「ナギぃぃ、ナツメに殺されそうなんだけど!!」

「今回に関しては残念ながらお前らが悪いから土下座して謝っとけ」

「ぷぎー!?」

「土下座だってよ」

「やったことないどうやんの」

「手を地面について頭も下にするんじゃなかった?」

「それは……逆立ち?」

「うぼぼぼぼぼぼ」

「いやそりゃあ逆立ちしたら吐くよなあ!?ナツメー!バカがまた吐いたー!!」

「もういや!窓から捨てなさい!!」

「すぐ海ですけど!!?」

「間違いなくサメの餌!!」

真夜中過ぎ、どうしようもなくなっていく四課。
また吐いたバカにもう一度冷水をぶっかけ、無事だった奴には無事じゃない奴の面倒をみさせた。比較的まともなやつもまぁ、いることにはいる。そしてそういう奴に限って、こうして貧乏くじをひかされるわけだ。

「いやでもナツメがそのまともな奴に分類されてるのがすごくおかしいなって俺は思うんだけどな」

「ナギ、あんたが酔わないのはもののついでに私に殺されそうだからだよね?わかってるのよ?」

乱雑に処理を済ませ、もういいやと全員置いてナツメは四課を出ることにした。ナツメがいれば大丈夫だと思うから、平然と一気飲みなんて繰り返すんだろう。愚か者どもめ。

「もういやよ、私帰るからね。もう知らないからね」

「ちょ、ナツメ頼むから見捨てんなよ」

「い、や」

ぼろぼろの連中を放置してナツメは踵を返す。されども9組の、地獄絵図と化した談話室を出る前に振り返って、一度だけナギを呼んだ。

「全員、明日使い物になるように監督しておいてね」

「何でだよ?っていうかもう無理だろこれ」

「無理うんぬんの話するんなら私が来たときには既に無理だったでしょ。だから、そこをなんとかしてくれないと」

「またお前は唐突な無茶振りを……」

好きに苦笑いしていろと、ナツメもまた苦く笑った。
最悪の事態がありえるのなら、きっとこれが最後になる。

ナツメはもう何も言わず、ただ寮を出た。






四課に続く廊下を進み、途中で折れ、霊廟に至る。薄明かりは壁に取り付けられた魔晶石がほのかに落とす光のみで作られて、足元も覚束ない。それでもナツメはここで転ぶことはない。
クリスタルの鎮座する御座、その前に立って、ナツメはクリスタルに手を伸ばす。指が触れ、熱が伝わる。炎じみて熱い石の中に、存在を感じる。

ナツメはクリスタル信仰から遠く離れた存在だ。そもそももって生まれが不明、娼館に売り飛ばされたりなんだりと、クラサメに出会う前のナツメの人生は白虎底辺のエリートコースみたいなものであって。
彼女の人生のどこを見たって、神様のたぐいは売り切れだった。だから、朱雀に来たばかりのとき、この石の加護を祈られて、ナツメはさぞ困惑したものだった。

石?石がなに?石を信じるの?えええ、マジに石なの?

学のないナツメは聖遺物なんてものの存在も知らなかったから、“もの”を信奉する感覚がわからなかったのだ。
しかもその石は貴重すぎて見ることも触ることもできないという。魔力の源であることだけは辛うじてわかったけれど、姿もわからない石を信仰するなんて、やっぱりどうしても。
それよりはクラサメのほうがわかりやすく素敵だったのでそっちを全力で信じるようになった結果がこれなのだが、それはいいとして。

いまや、ルシとなったナツメなら触ることができるこの石、その中にナツメは命を感じている。生き物の気配がする。
似ている何かを知っている。ビッグブリッジ、ルシになった日、ちからを初めて行使したとき、背中に張り付いていた粘着く闇。あれは、この石から生まれたものなんだと思った。

石の声がする。『汝、何を望む?』あの赤い世界をもう一度、もっとしっかり見たいだけ。
ドクターが見せたものを。

クリスタルは答えるでもなく、赤い光を燦めかせる。光に呑まれながら、ナツメは己の喉が鳴ったのを感じる。
一瞬の空白。強く目を閉じた。
闇の奥に、信号旗めいてちらつく光。


記憶は、ドクターが見せたあれよりずっとはっきりしていた。夢の中のようにおぼろでありながら、血の臭いまで認識できる。が、ナツメの意思で動かすことができない。
ここは、ビッグブリッジか。誰かを探すように、身体の眼は何度も揺れ動き左右を確認していた。焦燥を感じている。急がなければと悲鳴混じりに。

走って、走って、死体の真横を何度も通り過ぎ、最後にはあの丘に至った。ナツメも知っている、クラサメが命を捧げようとしていたあの丘だ。

「クラサメ!!」

ナツメが叫ぼうとしたとおり、身体も叫ぶ。聞き慣れた自分の声だった。やはりこの身体は己のものなのか?……というか、これは、ナツメが実際に体験した、ほんの数ヶ月前の記憶ではないだろうかと思った。ビッグブリッジの戦い、ナツメも確かにクラサメを探し走ったから。
彼女はクラサメの名を何度も呼ぶ。足元に候補生が倒れている。クラサメの背中を目指し、彼女は転びかけながら、彼らを蹴り飛ばすことも厭わず走る。
魔力の奔流がそこにはあった。その流れの果てに、セツナ卿の後ろ姿が見える。

ああ。
やめてくれ。
クラサメだけはつれていかないで。
お願いだから。

クラサメだけは。

ナツメが、これが記憶だということも半ば忘れながら願う最中、手を伸ばしてもその身体が間に合わない。
何が足りないのか、彼女の手が届かない。

どうして?私は間に合ったはずじゃないか。ルシになって、クラサメのファントマを取り戻せたはずじゃなかったのか?

そう思う間にも、目の前でクラサメの命が消えていく。彼がゆっくり、傾いで崩折れていくのを、ナツメは呆然と見ていた。


その瞬間だった。
ナツメの意識を支柱に置いて、音もなく世界が巻き戻る。
意識が一瞬途切れ、次に覚醒したときにはまた、トゴレスの灰色の空の下にいた。
察する。あれはナツメの、“今回”の記憶じゃない。いずれにせよ、過去のどこか、クラサメが救えなかった世界の記憶だ。
それに気付いて、ぞっとした。

繰り返すの?これを?
一度見ただけで発狂しそうに苦しい、これを?

ナツメは困惑し、恐慌し、逃れ得ぬ苦痛に恐怖した。だが時間は止まらない。

それからはもうずっと、その悪夢の繰り返し。

目が覚めては、クラサメの命を見送って、大概発狂した。そんな苦痛を毎度味わって、ナツメも疲弊を繰り返す。
命が枯れていくような、心が乾燥していくような感覚。何度叫んでもクラサメには届かなくて、ナツメは生きられない。

そのうち。
その悪夢が、何百回と繰り返された頃。

疲弊しきった身体が、死にゆく寸前、ナツメの声で。

「繰り返してるんだ、これ……」

ナツメの身体が、死の寸前、そんなことを呟いた。
内側に潜るナツメがその言葉の意味を考えるより先に、次の世界がやってくる。
それは今までと違い、ひどく克明だった。少なくとも断片的ではない。

次の世界。
ナツメは、人間のまま、生きていた。
意識がはっきりしたのはしかし、ビッグブリッジではなかった。
足元で踏まれた石畳が割れる。ひび割れが無数に走っていて、傍らには死体があった。

ここは……魔導院だ。ナツメは視線を滑らせる。どうやら、魔導院の入り口のすぐ外のようだ。朱雀像が崩れていて、いくつもの死体が転がっていた。
何度目の記憶だろうかと思う間に、足が動き始める。身体は魔導院ホールを目指しているらしい。
右足と左足の着地のバランスがおかしい。怪我をしているようだ。魔法が使えないのか?何もわからない。

「危ない!!」

不意に、身体が突き飛ばされる。地面に転がって、ゆっくりと上げた視線の先にはエースがいた。彼はこちらを庇いながら、カードを空中に滑らせる。鋭く刺さる音がして、ばらばらと金属製の何かが崩れるような音もした。

「やったか……?」

エースは背後のそれを見やり、もう動かないことを確認すると、ナツメの手を取り引っ張り上げる。

「副隊長、早く!!」

「え、……あ……」

副隊長と呼ばれて初めて、やはりこの身体は己のものなのだと思う。他人からの承認を受け、疑惑がほとんど確証に近くなる。
エースに手を引かれて走り出すも、唐突に景色が切り替わる。エースの手が解け、ナツメはつんのめって膝から崩れ落ちてしまう。

そこは、ホールの中だった。だが、見慣れた場所とは言い難かった。壁は崩れ、天井も瓦解、大魔法陣に柱が突き刺さっている。
そして、死体の山。

不意にナツメの前に、ばけものが立った。
そう、ばけものだ。ばけものと呼ぶ以外、思いつかない。
人間と思うには奇妙すぎ、モンスターと思うには人間に近すぎていた。長過ぎる足、胴、大きな頭。人間が縦に伸びたかのような姿。全身はつるりとしていて、金属めいた反射で赤い光に染まっており、その上にまばらな鎧が装着されていた。
顔の部分はまるで仮面のようで、表情筋がそもそも存在していないように思えた。手には長大な剣を持ち、緑の鉱石を切り出したままの鋭さで、発光していた。

そんな刃が、勢いをつけてナツメを横薙ぎに穿つ。ナツメはろくに反応もできず、無様に床に叩きつけられる。
死ぬ。そう思った。本能が警鐘をけたたましく鳴らす。どくどくと脈がうるさい。耳の奥を蚯蚓が這い回っているかのようだ。

「い……いや……いや……」

言葉にならない。動けないナツメに向けて、ばけものは剣を掲げる。
一瞬の沈黙。

「ナツメ!!!!」

直後、あの、柔らかくて愛おしい声が、聞きなれない鋭さを持って走る。雷めいた斬撃が凄まじい速度でばけものの胴体を貫いた。砕けた身体がぼろぼろ崩れ、小さな歯車が宙に舞った。

「クラサメ……」

「生きてるな!?立て、早く魔法局に行くぞ!!0組が魔法局の防衛にあたっている、もうあそこしか無事な場所が、」

「クラサメ、だめっ!!」

ナツメの手を引いて走り出すクラサメの行く手を見て、ナツメは悲鳴をあげた。化物が立ちふさがっている。
クラサメはもう一度、氷剣を掲げるが。

背後で金属音が響く。振り返ると、化物の身体が、たったいまクラサメが殺したはずの化物が、蘇生していた。生き物と呼ぶにも抵抗があるが、少なくとも元通りになってしまっていた。

「ナツメ、離れるなよ……」

「く、クラサメ、これ、」

「大丈夫だ」

クラサメはこちらを見ず、一瞬だけ手を握り込んだ。その熱が、ナツメを現実に引き戻す。
戦わなければ。ナツメだって戦わなきゃ。クラサメを失いたくないから。

なのに、身体が動かない。
ナツメは理解した。この身体は、魔法が使えない。いや、使えはするかもしれないが、こんな脆弱な……。
六億回目のナツメはルシで、だからクラサメほどではないにしても戦える。けれどこの身体はもしかしたら、ルシになる前のナツメより更に惰弱かもしれなかった。

恐慌状態に陥るナツメを放って、世界はまた切り替わる。次に目を開いた時には、ホールはまた様変わりしていた。
氷の柱がいくつも立って、化け物たちを鋭く貫いている。化け物たちは痙攣しながら、その檻を逃げ出そうとしているようだった。
クラサメの魔法だと一瞬でわかった。氷が、ナツメを傷つけないから。

「クラサメ……」

膝をつき倒れ込むクラサメに抱きついて、ナツメは震える手を必死に押さえ込もうとしていた。何箇所も剣で貫かれたクラサメは血に塗れ、金属のマスクがひしゃげて床に落ちている。口から血を溢す。涙が溢れて、ナツメは彼の顔をよく見ることすらできない。
ああ、どうして、ナツメは何もできないのだろう。こういうときに、力になりたいから、治癒魔法を覚えたはずなのに。
どうして。

「時間が……ない」

クラサメが血を吐きながら、ナツメに言う。

「魔法が、解ける前に……逃げろ……」

「嫌よ!!」

ナツメの身体は、ナツメが命じる通りに叫んだ。クラサメを放って逃げるなんて、ナツメにできるはずがない。
なのに、クラサメはナツメの手を離して、言うのだ。

「逃げて、……生きろ」

うっすら微笑んで、そんなことを。

「頼むから」

なんてさ。

いっそ、笑えてきてしまう。
頼むなよそんなこと。ナツメには、笑えてしまう。

生きろって?こんな世界で、生きろっていうのか?一分一秒でも長く生きろって?
あなたのいない世界で、生きていけと。

「……そんなのってひどいんじゃない?嫌いになっちゃいたいわ」

ナツメの声は、ナツメの思う通り響いた。どんな世界でも己の思うことは同じなんだって、理解する。

ほんとよ?嫌いになりたいわ。憎みたいわ。恨んでるわ。本当よ。
そんな酷い仕打ちを、平然と私にするのね。
私をこんなに苦しめて、まだ足りないって言うのね?まだ苦しんでほしいって、そうなのね?

そう。

「いやよ」

嫌嫌嫌嫌嫌いや嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやいやいや嫌嫌嫌嫌嫌、い、や。

嫌よ。
私なんかいくらでも傷つけて、何百回でも殺していいからさあ、
お願いだからあなたに生きてほしいよ。

愛してるから。


腕の中で、クラサメが死んでいく。息を失って、音を失って、熱を失って。
氷が融けて、ばけものがまた生き返る。ナツメはゆっくりと顔を上げ、化け物を見た。
腕の中の死んでしまった命を放り出して。

身体が、ナツメの身体が、クラサメを忘れた。
中にいるナツメは忘れていないのに。

数百回目の彼の死を前に、うそつき、と心で唱える。
ナツメのいない世界ではクラサメは生き残らない、なんて言って。
ドクターは嘘をついた。
ナツメがいたらナツメのために死ぬだけじゃあないか。

「いつまで耐えればいいの?いつまで私、死ねばいいの?」

「副隊長!!」

「早く立って、逃げますよ!!」

デュースとトレイがナツメに駆け寄り、茫然自失の身体を助け起こそうとする。クイーンとナインがまろび出て、ばけものたちを一瞬で貫いた。ナインの槍の柄がぶんと風を切り、それらを二度と近づけない。
クラサメを放って、彼らがナツメを魔法局に引きずり込む。ナツメはついうっそり笑ってしまった。魔法局の守りは破られ、既にばけものが侵入していたのだ。
セブンが振り抜く鞭も、エイトの素早い拳も、ケイトの銃弾もサイスの鎌も、ばけものをいとも簡単に屠る。されど繰り返しても繰り返しても、ばけものたちは蘇る。

ねえ、いつまで耐えればいいの?

世界が巻き戻る。何度も何度も。
繰り返しクラサメが死ぬ。繰り返しナツメが死ぬ。そのうち、足元に今度は0組の死体が混ざった。そのうち0組が少しずつ、強くなっていくのを感じた。でも彼らだけだ。ナツメもクラサメも変わらない、いつまでたっても強くもしたたかにもなれなかった。それからも何度も、同じ世界の繰り返し。
不思議なもので、0組は記憶を持たないにも関わらず、まるで経験から学ぶかのように戦いがうまくなっていった。本当に少しずつ、亀の歩みだが、世界は前に進んでいるように見えた。
けれどナツメは0組がゆっくり世界を変えていくのを、そしてひたすら殺されていくのを、指を咥えて見ているばかりだった。

何も出来ない。どうしてこんなに無力のまま、繰り返し、繰り返し、繰り返し。
世界に一つも干渉できない塵芥のまま。

「ねえ、あと何回死ねばいいのよ?」

誰も答えない。
世界が、巻き、戻る。

そうして何度目か。
もうだれにもわからない輪廻、ナツメはクラサメの死体も0組の死体も顧みることなく、あのばけものたちの攻勢をかいくぐり霊廟に走った。
そして、クリスタルの前に至り。

ナツメは崩折れた。

膝をついて、地面に手をついて、沈黙して。

背後で、階段を降りてくる音がしている。金属の、鎧が鳴らす音。
あのばけものが追ってきている。時間がない。
次の世界で、同じ結論に至れるか自信がない。思い出す自信がない。同じだけの怒りと絶望を所以にし、未来を求めることができるかわからない。

ナツメは初めて、クリスタルに祈った。後にも先にも、きっとこの一度だけ。

「お願いします……お願い、します……」

ぺしゃんこに蹲って、冷たい地べたに涙でぐずぐずの顔を擦りつけ、あり得ないほど無様に惨めに。
ただひたすらに祈った。

「いつでもいい、いつでもいいから、この世界がいつかこの闇を晴らす時に、私、クラサメと一緒に生きていたい……!」

私なんかが世界の運命に少しでも干渉できるはずないだろうけど。何者にもなれない、脇役風情が。

「それまで生きる命が何百回分消えてもいい、これまでの全てが消えてもいい。最後にクラサメと出会う私が、どんなに不幸でも醜くてもいい、もう愛されなくったっていいから、全て乗り越えて生きていられるように。クラサメが生きている未来に、生きていられれば」

カツン、カツン。
間をあけて響くその靴音は、霊廟の高い天井にやけに響いていた。

「いつかあの子達が、未来を変える日が来るんでしょう。それを待っているのよね?それまで私、命を試す機会なんていらないから、精錬の時間なんてもうなくっていいから……」

世界を変えられるのは0組だけ。あとの人間は全て、ただの背景でしかない。その他大勢だ。ナツメが世界の仕組みに気付いたのは、絶望が大きすぎたからか。もしかしたら、みんないつか気付くのかもしれない。そうやって命を美しくして、賢くなる必要なんてないと思った。クラサメの隣にいられれば、いや彼さえ生きていてくれれば。
それで。
もう、それで。

振り下ろされる刃が、己を真っ二つに切り裂くのを、ナツメは声もなく受け入れた。






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