Act.43-a:two of a kind.






ある日の午前中のことだ。授業は退屈な魔法理論で、成績優秀なエースからしたら少々基本的過ぎた。
クラサメが書いたものをただ板書するだけの時間、エースは珍しく眠らず、口を開いた。

「そういやクラサメ隊長っていつナツメに手出したんだ?」

授業が退屈すぎた。原因はそれに尽きるのだろう。エースが無遠慮過ぎたというのはまぁ、彼もまだ若いので多目に見られたい。
ともあれ空気は凍りつき、クラサメは黒板の端で殺気を放った。

「それは授業がつまらないと言いたいのか?それとも死にたいのか?」

般若を背負う勢いで、ズゴゴゴゴというオトマトペが浮かぶ中で、クラサメは地獄を這うような声で言う。一気に狼狽えたエースは慌てて釈明した。

「じゅ、純粋に気になって!?ナツメも教えてくれないし!!」

それで終われば、次の演習でエースが執拗に鍛えられるだけの話だった。
だが。

「バッカねエース、時系列を整理すればそんなのわかるじゃない!各所の話を統合すれば事件があったのは5,6年前で、ナツメが四課に入る前なんだからつまりナツメがアタシたちとおんなじくらいの頃よ!」

その瞬間、また違う意味で空気が凍った。クラサメが凍りついたからだ。
そしてマキナがそっとレムを庇うように腕を引いたからだ。

「おい女子隠せ」

「隊長こっち見ないで!」

「隊長のロ、ロ、ロリコーン!!」

「そうか死にたいかお前たち死にたいんだな!?」

さながら思春期の娘が父親を嫌がるの如く嫌悪を露にする女子、それを庇おうとする若干名男子、冷めた目をした男女が一人ずつ、苦笑と呆れをにじませる女子が二人。
もう誰が誰だかわかりそうな空気だがそれはいいとして。

「誰が!!誰がロリコンだ!?」

「だって副隊長15歳前後あんたハタチ前後だろ!?」

「年齢がどうのという話じゃないだろうがそもそも!!」

「……ほほう?相手がナツメであることが肝要と、尻尾を出しましたなぁ隊長?」

ニヤついて言うシンクに、クラサメの怒りが怒髪天を衝いた。
0組がこの日、大量の氷に囲まれて午前の授業を送る羽目になったのは、つまりはこういう顛末だったのである。






そして午後。
彼らは冷え冷えとした身体をさすりながら、演習のために闘技場を目指していた。
この流れで演習って僕ら死んじゃわない?さすがに殺されはすまい、たぶん、きっとな。そんな会話をしながら死んだ目をして歩く彼ら。
先頭を歩いていたエースは、それを見つけてしまった。

ホールの片隅。クラサメのトンベリと、ナツメ。
一匹と一人が、真顔で睨み合っているのを。

トンベリは包丁をまっすぐナツメに向け、ナツメはといえば手の中に魔力の奔流を漂わせながらもトンベリから目を離さない。いつでも殺れる、そんな雰囲気を漂わせていた。

「そ、そうだナツメ!ナツメがクラサメ隊長に惚れたのっていつごろなんだ!?」

ついとっさにエースがナツメに話しかけたのは間違っていない。なぜか仲が悪いらしいトンベリとナツメが殺し合うぐらいなら、なんでもいいからナツメの注意を逸らすべきだった。
なぜか絶対零度の睨み合いをかましている副隊長とトンベリを見つけたらしょうがない、誰だってそーする俺だってそーする、そう思った結果エースが脳内からひねり出したのは、完全にただの焼き直しであった。
なぜ、なぜ学習しないのだ。クイーンが背後で後退りしたのを感じたが、エースはもう後にはひけない。
目の前で、ナツメの顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。

「バッカねエース、そんなの時系列を整理すればわかるじゃない!事件があったのが5,6年前、その更に5,6年前なんだからつまり、クラサメ隊長があんたたちくらいの頃よ!」

その瞬間、またも空気はわずかに凍った。
うわあありえねぇという顔をする者があり、それもありだなという顔をする者があった。一方で女子は顔を見合わせ、レムはマキナの腕をそっと引いた。ナツメの眦が引きつる。

「……副隊長」

「なによ、トレイ」

「犯罪ですよ」

「なんでそうなる!?何がどうなってんの!?よしんばクラサメがあなたたちくらいだったからって、私はその更に五年は若いのよ!!?」

「ああ」

「そういえば確かに」

「それはナシだな」

「クラサメ隊長はやっぱり犯罪者予備軍だな」

「何なのこの会話!?」

わけもわからず釈明するナツメだったが、その背後で沈黙を保っていたトンベリが、包丁で床を叩き金属音を鳴らす。
ナツメが振り返る。
その視線の先で、トンベリは、あからさまに、嘲笑めいて笑った。

気がした。

「て、め、ぇこの野郎……!!」

聞いたこともない言葉遣いで、ナツメの魔力が暴走を始める。

「えっ、ちょっ」

炎の竜がホールで一瞬立ち上り、トンベリとナツメは死線を演じ、保護者が迎えに来るまで収まらなかった。
0組がこの日の午後を黒焦げで過ごす羽目になったのは、つまりはこういう顛末だったのである。







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