Act.26






それは、クラサメがナギに言われて教室を飛び出していった日の、翌朝のことである。

「……」

「……」

場所はサロン。複数ある小部屋のひとつ、現在はほとんど0組が専有している状態のその部屋に、二人はいた。
一人は奥の椅子に深く腰掛けて足を組み、背もたれに身体を預け腕は肘置きに無造作に載せられている。対して一人は、その前に膝をついて座っていた。俗にいう正座である。床に直接座る文化のある蒼龍の東の地方で見られる待機姿勢の一つで、特に沙汰を待つ時に使用されると聞く。その際は手を前に出し、頭を地面に押し付けるのが尚ベターだとかなんとか。エースはよく知らないが。
ともかく、面白いもんが見れるぞと珍しくサイスがにやにやしていたので、怖いもの見たさで来たエースは、既に若干笑いをこらえている。

「なぁ、ナツメはあれ本気で怒ってるのかな」

「まさか。本気で怒ってたら今頃殺し合ってるぜ」

「楽しそうですねサイス……」

サイス、クイーンとともに、エースは端の向かい合ったソファにいる。反対側で沈黙の中に吹き荒れるブリザードを盗み見ながら、こそこそと話し込んでいた。二人は大変楽しんでいたが、残りの一人はなんでついてきてしまったんだろうという顔をしている。サイスがこういう態度でいることは非常に稀で、数年に一度しかない。そして大抵、事件を起こす。だからこそついてきたクイーンが後悔しているのを横目に見て、エースは内心で嘆息する。後悔するくらいならば、放っておけばいいものを。

「そういえばサイス、君は何を知ってるんだ?」

「あ?あの女がバカなこととナギも同じくらいアホなことだよ」

「なんの回答にもなっていませんよ……」

「うるさいねぇ。見てりゃわかるだろうよ」

「まぁ言われずとも見るけどさ……」

そうエースが振り返ろうとした瞬間、ナツメのロングブーツの踵が強く大理石の床を叩いた。











「それで、何か言うことは」

「……エーット……」

「ナイフ折るよ」

「すいませんでした……」

エースたちが自分たちをこっそり覗き見ていることなどいざしらず、ナツメはナギを見下ろしていた。いつになく無表情の彼女の視線から逃れるように、乾いた笑いを浮かべたナギの顔は斜めに逸らされたままである。ナツメの手の中には、ちょうどエースたちには見えない位置にあったが、ナギのナイフが握られている。時折くるくるとナイフを回しながら、ナツメはじっとナギを睨む。さてどう虐めてやろうかと考えた。

「なんだったっけ。売女っつったっけ?ねえクソ野郎」

「すいませんでしたっつってんだろ!」

「開き直るのが早いわ阿呆。ナイフ折るよ」

「すいませんでしたーあー!」

「誠意とかないのかおのれの中には」

ナツメは深くため息をつく。どうしようもない話だ。ナギはすぐ逆上するし、ナツメだって精神状態はどうせ不安定だ。自分でわかっているから、疑いもしない。不安定に安定している、なんて言われたこともあるな。他でもない、目の前で小さくなっているこの仲間に。

「……私はね、ナギ」

「ん」

「私は嘘つきだし、後ろから刺すような女だわ。でも自分が何を守りたいか知っている。そのために淫売だの、クソ女だと呼ばれたとしても、別にいいの」

言いながら、ナギを虐めるための言葉か自分でわからなくなる。嘘まみれな自分の唯一の真実を口にしていたいだけか。守りたいものを守る、ただそれだけのことを、口にすると少しずつできているような気になる。どこかで区切りのつくようなものではないのに。
ともあれその真実は多くの代償を要求し、ナツメは支払ってきた。だから今更それをひっくり返されるのを望まない。意地もあるかな、とふと思った。彼を今ここで守れないなら、自分はこの五年一体何を。どうしてもそう思ってしまうから。
守りたいのはどちらなのだろうか。クラサメか、自分か。いつかきっと答えを出さなければならないと思うのに、考えても解決しそうにないと思った。同一化なんて最低だと思うけれども。

「私が何を譲れないのか、知ってるでしょ」

「……ああ。悪かったよ。誰にでも命より大事なものがあるよな」

「そうね。……私にとってその執着が、ごく一般のそれよりひどいことはわかってるけど……あんたも、それくらい知ってくれていると思ってた」

「知ってた。だから、そうだな……俺は、お前が優先するものを優先できねぇんだよ。お前の理屈が成立するんなら、俺だってそうだよ。俺も嘘つきで、後ろから刺すのが仕事だ。でも守りたいものを知っているから、お前にクソ野郎って呼ばれるのはまぁ堪えるけど……別にいいさ」

「似てるんだよねー私ら……」

「クソみてぇなところがな」

「考えたら負けなんだよ。こういう人生だとそういうことは案外多いものだわ。なぜ殺すのかとか、なぜ逃げないのかも、考え出したらバカバカしくなってくるから」

「あー仕事やめてー」

「とか言いながら今日も内務調査に精を出すナギなのであった。……ま、怒っちゃいないわよ。理屈で理解できないことじゃないしね。……でも、お願いがあるなぁ。聞いてくれるよね?」

ナツメは足を組み換え、サイドテーブルを指先で叩いた。ナギがぱっと上げた顔にその指先を滑らせるようにして伸ばし、額をぐっと押した。許されたのでと立ち上がりかけていたところを押されたものだから、ナギはバランスを崩して尻もちをつく。ナツメはそれを見下ろしてにっこり微笑み、椅子を立って屈み込んでナギの耳元に口を寄せた。

「クラサメのとついでに私とエミナとカヅサの個人ファイル、全文書ちょうだい」

「はっ……はああああああ!?」

「機密とか細かいこと言ったら殺す」

「細かくねぇよ!?微塵も細かくねぇ!!」

「0組の分も全部とか言わないだけありがたく思え。いいじゃない、私が全部燃やしておくからね。ね?今すぐ行って取ってきて、おねがい。じゃないと私不安で不安で、あんたのナイフで自殺図っちゃうかもしんない」

あくまでにこやかに、ビッ、と地下を指さすようにサムズダウンしたナツメに、ナギはわなわなと唇を震わせた。0組の分を要求しないのは、彼らに関しては四課でも最重要すぎるので手が出せないというのが主な理由であった。さすがにそこまでしたらナギだってナツメだって物理的に首が飛ぶ。

「今日中ね。コピー作ったらぶっ殺す」

「ぐ……ぐおおおおお……」

「待ってるからほら行けコラァ」

ナギが促されてとぼとぼと、時々恨めしそうに己を振り返るのを見送ってから、ナツメは椅子を立ち上がる。それから端のテーブルでこそこそしている三人のもとへ足を進めた。
エースとクイーンはあからさまに「やっべこっち来た」という顔をしてみせたが、サイスの表情はまるで変わらない。それどころかふてぶてしく口角を上げた。

「あれで許してやるわけ?ずいぶんおとなしいんだな、アンタ」

「サイスならどうするのよ。0組の仲間だったら」

「さぁね……手を付けられた中身によるかな」

「それがなんにせよ、結局折れるしかないのはこっちだからね。別離を選べないんなら、どのみち許すしかないのよ。……それにしてはえぐい注文をつけたけど」

さすがにナツメの頼み事の中身までは聞き取れなかったらしい彼らは一様に首を傾げた。ナツメはふっと息を吐くように微笑んで、知らなくていいと顔を横に振った。
それというのも、ナツメの頼み事とは四課第一の則に触れる、どころか全力で違反しているのだ。聞いて止めなければ充分すぎるほど共犯状態なので、知らないのが一番。

「あなたたち、こんな時間までここにいていいわけ?始業時間はもうすぐだけど」

「へ?……あ、ああああ!エース荷物を!走りますよ!!」

「うっわあと二分!?」

「もう間に合わねぇっつの……」

「いいから早く!走ればなんとかなります!」

クイーンがサイスの腕をひっつかみ走りだす。ひらひらと片手を振ってそれを見送り、ナツメは微笑みを浮かべたままですぐ後ろのソファに深く腰を降ろした。肺をふくらませるよう意識して酸素を取り込んで、そしてすべて吐ききる。頭がまだ、よく整理できない。
朝、ナツメは起きてすぐ彼の部屋を出た。クラサメは既に起きていて、一悶着あったけれども、ともかく彼とはまだろくに会話をしていない。このままでは良くないとわかっているが、昨夜の流れでまともな話し合いができるとは思えなかった。
考えなければだめなのに。ナツメの手の中で、ナギのジャックナイフの白刃が煌めく。

「っはー……」

考えなければならないこと。ひとつ、クラサメの出撃のこと。これについてはもっと詳しく調べる必要があるだろう。それによっては、まだあがく道があるかもしれない。ふたつ、クラサメが四課を襲撃したという話の詳細。ナギの言葉がどの程度真実か。みっつ、己の身の振り方。これはひとつめとふたつめの如何によってかなり変わってくるが、あれだけ大騒ぎしておいて四課内でこれまで通り、とはいくまい。改善を図るべきか、あえて逆をいくべきか。事と次第によっては、ナツメの手でかなり強引な人員整理をするはめになるかもしれない。ナギを殺せないとしても、強硬な手段を取れないわけでは。
ナイフにはもう血痕は一切見受けられない。まるで昨日一日がすべて無くなってしまったかのようだった。めまぐるしく過ぎていった昨日が、ナツメの身体の外には存在しないみたいに。

「……おらよ」

「早かったじゃない」

「こんなんゆっくりやってられっか」

青白い顔をしたナギが、魔法陣から現れる。ジャケットの内側から取り出した資料を受け取ったナツメは、開きもせぬ間に顔を顰めた。そして顔を近づけて小声で囁くように、しかし明確に苛立ちをぶつけた。

「……ちょっと待って。エミナのは?」

「見せられねぇんだよ」

「は?なに、それ」

「機密どころの騒ぎじゃねぇから。あの人は……あの人は、お前の手に負えない」

「ナギ」

ナツメは、ファイルを片手で強く握りしめたまま、ナギの腕を強く掴んだ。女一人の力などたかが知れていて、ナギは顔色ひとつ変えなかったが、じっと睨むようにナツメの顔を見た。どうしてなの、と繰り返すと、ナギはぐっと喉に息を詰まらせて周囲を窺うように視線を巡らせた。

先ほどから、ナツメとナギが大事な話をする瞬間だけこの無人の部屋で声を潜めるのには理由がある。盗聴器の存在だ。四課では誰でも知っていることだが、魔導院内はほぼすべての場所に盗聴器が仕掛けられているのだ。先程からいくら四課でもばれたら命が危ないほどの危険を犯し続けているから、盗聴器に声を拾わせるわけにはいかない。
ナツメはため息をついた後、ぐっとナギの肩を押してソファに座らせ彼の膝の上に足を載せた。そして耳元に唇を寄せると、「教えて」と頼み込む。

「エミナに何が起きてるの」

「……スパイ疑惑が掛かってる。幼少期、一定期間、彼女は消えてるから」

「なんですって……そう。そういうことなの。だから資料を持って来られないのね……」

「それだけじゃない」

ナギはナツメの耳朶のすぐ下でぐっと唇を噛み締めた。

「0組が関わってるらしい。四課が巻き込んだ」

「やってくれるじゃないのよ……!」

「俺だって知らなかったんだよ……とにかくそういうわけで、今引っ掻き回して資料が消えたりしたらエミナさんも0組もまずいことになる。調べてる武官たちが生きてる限りは絶対にな。0組は、あの人と仲がいいからって選ばれたらしい。だから資料が消えたら真っ先に怪しまれる。……怪しまれなかったとしても、これを失敗したら0組には調査の適性なしってことになる。そいつはよくない、わかるよな」

「あんたが0組を表舞台に引っ立てたいのはわかってるけどね……でも、そうか。そういうことなのね」

ナツメはぐっと目を細める。それならやることは限られてくるからだ。幼い頃から姉のように慕ってきたエミナがスパイだなんて、にわかには信じがたいことだけれど、どちらだとしてもナツメにとって問題は変わらない。朱雀の味方が己の味方だとは限らないのだから。

また問題が増えやがったなとため息をついたときだった。ナギが突然、ぐいと腰を抱き込んできた。おかげで立てていた膝が崩れ、ナツメの頭はナギの肩に軽く打ち付けられた。

「んぐっ!?」

「お前はさーほんとにさー……」

「おい離せコラ」

「そうやってクラサメさんとかに向ける感情のうち一割程度周りに割けねぇかなー。そしたらもっと人生うまく生きられるだろうになぁ」

「余計なお世話だわ」

「知ってんよボケが」

ナギはナギで、ぐりぐりとナツメの肩に頭を押し付けてくる。ぎゅうぎゅうと抱きついて、一体何がしたいのかはわからないが、ナギは深く呼吸を繰り返していた。ナツメの存在を確かめているようなそんな感触がしたので、ナツメはふと胸の痛みを感じた。
ナツメはナギを殺せなかった。四課ごと叩き潰して、殺させることができなかった。それならナギだって同じなのかもしれない。ナギだって、同じ逡巡と戸惑いを抱えていたのかもしれなかった。
ナギとナツメは、よく似ているから。

「……私こそ、悪かったわ」

「痛くなかったか、あれ」

「うーん……しばらくして、激痛がきたわ。放っておいたら、さすがに死んでいたかもね」

「まじかよ……」

ナギの背に手を回して、落ち着けるように優しく叩いた。そうしてから、幼子をあやすような手つきができる己に驚く。思い出せない誰かがしてくれたのだと思う。ナツメは確かにどこかで誰かに愛されていて、今はそれが思い出せないだけ。そう思えば、心のどこかが楽になる気がしていた。
そうしてほっと息をついた、直後であった。

また魔法陣が起動して、ナツメの視線の先に人影が現れる。背中の部分だけ長く伸びた黒い上衣、夏にもなろうかというのに首まで迫るニット、昨夜さんざんナツメを睨んだグリーンの瞳に顔の半分を覆う金属製のマスク。
クラサメであった。

「何をしている」

「あ、え、いや?なにも?」

声量を一切荒らげることなくここまでの威圧感を放つ人間が他にいるだろうか。少なくともナツメは知らないし、ナギも知らなかっただろう。ナツメの背に回していた手をばっと離し、青ざめた顔で肩を掴んで押し戻す。ナギの額に浮く汗と、そこに降り注ぐクラサメの鋭い眼光。ナツメは深いため息をつきながら腰に手を当て、クラサメの顔を見た。

「もう。何に怒ってるのか知らないけど、そうやって威圧しないで」

「は?」

「オーケーオーケーストップストップ俺をここから出してくれ」

「ちょ、ナギ待って!」

ナツメを押しのけサロンから出ようとするナギをナツメは呼び止め、腕を掴んだ。そして、鞘のないジャックナイフを両手に持ち、ナギをじっと見る。

「返すよ。今度は刺さないでおいてやる」

「最初のときとは違うな」

「あのときとはなにもかも違うじゃない。あのときはお互い、相手をどう利用するかしか考えてなかった」

「たしかに」

ナギは薄く笑ってナイフを持ち上げ、手の中で消し去る。そしてクラサメに会釈して、さっさと踵を返す。それを見送って、ナツメはゆっくり背後の阿修羅を振り返った。

「で?どうしてここにいるの?授業は?」

「昨日の自習で与えた課題が終わっていなかった」

「クイーンとかエースとか、あとトレイは終わってたんじゃ」

「遅刻したので追加した。トレイは自分から欲しがったがな」

「ああ……そう、結局間に合わなかったのね……」

ということは、サイスの課題量はきっとすごいことになっているのであろう。望んで出歯亀していたのだから、ナツメの知ったことではないのだが、その課題が終わらなければフォローするのはナツメでありクラサメなので他人事にもしておけない。教員というのは面倒な仕事だな、なんて今更思って内心苦笑する。指導らしい指導など、一度もしたことがないくせに。

「ナイフ、返したよ」

「ああ。見ていたよ」

「……ごめんね。あなたを、変なことに巻き込んでる気がする」

原因はどうあれ、ナツメの行為は四課内のトラブルである。それをクラサメが知っている時点で、彼に迷惑をかけていると言えよう。ナツメはそれが辛い。きっとわかってはもらえないけれども。肺を空にするように長い息を吐いて、くらりと傾ぎそうになる頭を手で押さえた。クラサメは不意に手を伸ばし、その腕を掴んだ。

「ん?」

「さっきは、何をしていたんだ?」

「さっき?何が?」

「ナギ・ミナツチとだ。お前たちは、……何なんだ」

「同僚だけど」

「そういうことを言っているわけではない……!」

握られた手が、怒気を孕む言葉尻にあわせて力を増した。痛みはないが、痺れが走って顔をしかめるとクラサメははっと気付いたように腕を解放する。彼がナツメを傷つけることは、余程のことがない限りありえない。逆説的に昨夜は、その“余程のこと”があったわけだが、ナツメはいつもクラサメの心を後から思い知る人間なので。
今回も御多分にもれず、ナツメはクラサメの真意が簡単にはわからない。首を傾げて彼のグリーンの目を見上げると、彼は端正な目元を歪めていた。

「あいつとお前は、過剰に親密に見える。一体どういう……関係だ」

「関係……?……待って、ちょっと待って、変な誤解がある気がする」

「誤解もなにも、抱き合っていただろうが」

「はぁぁ!?ちが、それは違、……いや違わないのか……?で、でもなんでナギなんかとの仲を疑われっ……」

「疑われないと思っていたのか、あれで?」

「だってナギだし……乱れる風紀もへったくれもないのよ?そんな怒らないでよ」

ふう、と肩をすくめたナツメに、クラサメはいよいよもって眦を吊り上げた。あれ、とナツメは表情を硬直させつい一歩後退る。やはり真意がわからない。

「……お前は、風紀がどうのという理由で怒られていると思っているのか」

「違うの?」

「……もういい」

ナツメが首を傾げて問い返すと、クラサメは珍しくも脱力したように肩を落として深くため息をついた。まるで頭でも痛いかのように、眉間に手までやって。なにやら呆れられているようだった。戸惑うナツメだったが、その手が掴んでいる先ほどナギから手に入れたファイルの存在を思い出してはっと我に返った。
そうだ、エミナのことを考えなければならないのだった。クラサメに睨まれている場合ではない。

「私、行かないと。……あなたも授業に戻って」

「……ああ」

そう思って踵を返す途中、ナツメは足を止めた。一つ、気にかかったことがあった。

「ねぇ。さっきはぐらかしたよね、なんでここに来たの?」

「お前が、今朝。逃げるように慌てて出て行ったから」

ナツメは振り返る。クラサメは目を逸らさない。そういう人間だ。ナツメにはできないことばかり、クラサメは選んでやってのける。
だからナツメは、彼にいつまでも追いつけない。

「話?」

「ああ。……するべきだろう」

「そうね。わかってるよ。わかってる……今夜、行くね」

一瞬だけ切り結ぶように繋いだ視線は、ナツメから外した。目を逸らすのはいつだってナツメのほうなのだ。
ナツメは情けなくて、意気地なしで、正しいやり方がわからない。間違っていてもいいだなんて、最初から選ぶならただの言い訳だった。







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