Take your love, and take it down.






「じゃあ、陽動が私。単機で突っ込んで囮になってる間に、後続で突っ込んで来て頂くっていう単純明快な作戦でオッケー?」

「マジかよ……」

ルカがリグディにバキューンと手で拳銃を打つ真似をすると、彼は深く深くため息を吐き出した。
そう、シドの提案―十数機の飛空艇で霍乱しながら迂回して突入するというまあ無茶ではあるが真っ当といえるもの―を蹴って、すったもんだの末に承諾されたこのルカ発案のぶっ飛んだ作戦であるが。

「そんな作戦、パイロットの手配も難しいぞ」

「はいはいはいはい、リグディでお願いします」

「はあっ!?何で俺!?」

「だってほら、敵の迎撃をかいくぐりつつ近づいて私を下ろして墜とされることなく帰還なんてアンタくらいじゃないとできないっしょ?あと、飛空艇ならアンタの運転が一番好きってのも理由にあったりなかったり的な」

「そりゃ飛空挺乗り冥利に尽きる……って、いやいやそんな言葉で敵地に誘おうとすんじゃねえよ!」

「今ちょっと揺ーらいーだくっせにー」

とにかく、彼女たっての希望でリグディに確定した。拒否権などない。ここ数年、リグディは上司を味方につけた彼女に勝てたことなどなかった。否、もしかしたら今までに一度も。
というか、そんな無茶もいいところな作戦、リグディが操縦するのでなければシドも許可など出せはしない。尉官の命を受けてから表には出ないけれど、リグディを超える飛空艇乗りは騎兵隊にも居なかった。

「ったくよ、そういうの開始10分前に言うかフツー?大体こいつはおかしいんだ昔っから、関わると8割強でろくなことがねえしよ……疫病神かってのマジで」

「はぁーい黙った黙ったー」

それでも文句を言わずにはいられないリグディ。ルカはあはははと笑い声を上げながらリグディの首根っこを引っつかむと、ずりずりと引きずって一番小型の戦闘用飛空挺に文字通り突っ込んだ。
と、私とバディで空を駆けようぜ?とかなんとか言いながら自分も後部座席に乗り込み始めたルカに、後ろに居たシドが超小型の通信機を差し出す。それを彼女は受け取り、耳の中に仕込んだ。

「で?いつ出撃すればいい」

「んんー、リグディが帰還したらでいんじゃない。私がほとんどお片付けはしておくからさっ」

「おいおい、一人占めは禁止だぞ」

「悔しかったら早く来るんだねー。空の上なんかで戦ったら、腕の一本も残してやらないよ」

皮肉げに軽口を叩くライトニングにそう言って、ルカはにやりと笑った。それを見て付き合いの長いシドとリグディはため息を吐いたわけであるが、まあともかくそういう流れで以って、彼らは出撃することとなったわけである。

あーあ、という顔をしたリグディが発射の手続きを踏み、小型飛空艇の後ろの、母艦に括り付けられた連結部分が少しずつ外されてゆく。ガチャリ、ガチャリという音が実に7回を数えた瞬間、リグディが思い出したように「ああ、舌噛むんじゃねえぞ。ただしあとに響くから噛み締めんな」という若干難しい注文をつけ、音は次いで12回を数え、そして一瞬の浮遊感。
風景が下から上へと、流れていくなんてもんじゃない、“切り替わる“。

「イヤァァァァたっのしいィィィィィィ」

「うる、せっ!」

がちゃん、とリグディがギアを切り替え、艇は今度は急上昇で、自分の高度を取り戻す。その急上昇もまた、ルカにとっては楽しいものだったらしく、なにやら言葉にならない言葉を叫んでいたのだけれど。

「うあああほんっと楽しいんだけどこれ!絶対ノーチラスに作るべきだってこういうのー!」

「ったく……大抵の人間がこの急降下急上昇を経験して飛空艇に夢見るの辞めるってのによお」

「楽しい側の人間が何を言う」

「そりゃな」

きちんとハンドルを握りなおしたリグディの顔はルカからは窺えなかったけれど、声色は楽しくて仕方が無いと如実に告げていた。こいつは自分を戦闘狂と呼ぶけれど、アンタだって大概じゃんか、と小声で苦笑を漏らしてみる。飛空艇の爆音のせいで、たぶん一切聞こえていなかった。

「んじゃ突入すんぞー」

「おうよ!」

後部の人間にできるのは、操縦者のバックアップだけだ。そしてリグディに半端なバックアップなど必要ない。ルカはつかの間、すさまじい速度で変化する窓の外の景色を楽しんだ。そして、数十秒後のこと。リグディは一気に急上昇し、そのままパラメキアの真上へ出る。

「おら、見えたぞ。お前のホームだ」

「おおお、もーすぐだねえ」

リグディがギアを切り替えて急降下した。これから自分はタイミングを合わせてグラビティ・ギアを用いて飛び降りる。そういう計画だ。だから、二人で行くのはここまでだ。ここから先は、味方ゼロで。ルシ一味はまだ信用できない。ここから先は、実質一人だと、ルカは考えている。これが、“味方”といられる最後の瞬間だ。だから。

「んね、リグディ」

「あんだよ、突然静かになりやがって」

リグディはそう言いながら、ギアを切り替えて下向きに艇を傾ける。ルカとの会話は彼女が想定する限りではここで最後なのだけれど、当然、彼が別れを惜しむはずもない。最後だなんて、露ほども考えていないのだ。これが終わったら、全員が帰ってきて呪いを解く方法を探すんだと思ってる。……彼女ならそれが可能だと、信じているのだ。信じてくれているのだ。だから。
それなら、己だけでなく全てを信じていてほしい。

「先輩を、おねがいね。あの人は、それでも理想に生きているから。裏切らないから。先輩を嘘だと思ったなら、それは絶対に勘違いだから。最後まで信じていてね」

「は?そりゃどういう……」

「レッツゴー」

シートベルトを外したルカは、前方の操縦席に身を乗り出すと、アクセルレバーを引いて速度を思い切り上げる。そして天井に叩きつけられそうになりながら、ハッチを開けるハンドルを握った。

「あとは任せたぜリグディ大尉!」

「あ、ちょ待っ、!!」

空にはじき出される体。浮遊感。さて、反撃は始まった。上昇気流に巻き上げられ、グラビティ・ギアを展開。浮力最大。風船より軽く舞い上がる。
そのままギアを少しずつ緩めていく。重力を得始めたルカは、最小限の重さで以ってパラメキアのバルコニーへと飛び降りた。見張りは二人。そんなもの、彼女の前には在って無いに等しい。

「んなっ!?」

「た、大佐だ!総員武器を持、うわああああ!!!」

「武器くらい構えときなさいよもーぉぉトンマ!」

ハイペリオンを抜き取って、横に薙ぐ。ルカちゃん絶好調、首飛ばしは上司の特権です。そして地面にぶっ倒れた彼らの懐から無線機を抜き取ると、カチリとスイッチを入れた。アー、アー。聞こえますか?
ルカは笑う。無理にでも、笑い続ける。

「はーいこちらルカ・カサブランカ。ただいま皆さん!」

そこで一瞬の逡巡があった。続く言葉を躊躇うというより、相手が確かに聴いているか、それを確認するためのようなニュアンスの、間が。そしてルカは、口角を吊り上げ無線機から手を離した。

「凱旋だ、コノヤロウ」

戻ったぞ戻ってきてやったぞ、石を投げられた犬は嗜虐性を持つんですってよ?返答など待たずに地面に無線機は落ち、ハイペリオンの切っ先が深く深く突き刺さった。

それを視認してから、彼女は鉄の甲板に転がった二つの肢体を引っつかみ、風に任せて放り投げる。文字通り、腕の一本も残さない。
それと同時に、誰かが後ろに飛び降りた足音。

「よし。んじゃ行こうか」

振り返った先で、表情固い彼らが険しい眼で頷いたのを確認すると、耳の中に仕込まれた通信機を取り出し、ルカはこっそり指先でひねり潰した。
孤立無援上等だ。一度蹴った以上、もう自分に立ち止まる術は無かった。








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