Kiss with a fist.


A.F.600~頃?




今日、付き合いなさい。
そんなメールが知り合いから来たら、そしてそれが同僚間でも一番の美人で高嶺の花の代表格であれば、たいていの男は浮足立つと思う。命令口調なのが気になったとしても、相手がまさしく女王様キャラであれば違和感なく受け止めてしまうのではないのだろうか。

「……ははっ」

しかしリグディの口から漏れたのは、若干乾いた笑いであった。美人からの誘いに喜ぶでも、高圧的な誘いに辟易するでもない。ただの、静かな乾いた笑いだ。

「リグディさん、どうかしたんですか」

「ん?……ああ、いや」

終業直後、ロッカールームにて。コミュニケーターを確認した瞬間苦笑をもらした上司を怪訝な顔で見上げてくる部下に、リグディは片手をひらひら振って気にするなと示した。知られれば無意味に嫉妬を買う可能性があるし、かといって実際は自慢にもならないからだ。

「別に。なんでもねぇよ」

とりあえずドレスコードの要る店だけはやめてくれと、それだけ返信した。
都合の良い男なんて冗談じゃねぇぞと、内心でため息を吐いた。


そして、それから数時間後である。
自分の返信などおそらく意にも介さないだろう彼女に気を使って一旦家に戻って着替え、リグディは呼び出されたアカデミア駅前にいた。と、ジルが反対側からゆっくりと歩いてくるのが見える。もともと背は低いほうではないのに、刺突にでも使えそうなくらい細く高いヒールを履くものだから、それなりに高身長なはずのリグディとそう変わらない高さに目線があった。肩の下あたりで揺れる綺麗な金髪は艶やかに巻き毛を作り、周囲の視線を勢い良く掻っ攫っている。
彼女はリグディに気づいていて、何も言わず近づいてきた。そして二メートル程度のところで足を止め、「行くわよ」と言った。

「おい、待たせてごめんとか言えねぇのかお前は。仮にも先輩に対して」

「言えるけど言うつもりはないわね」

「それはどういう意味だコラ」

彼女はさっさと歩き出し、先導する。華やかとまでは言わないが、袖を黒いレースで縁取られた黒のサテンワンピースは彼女の細さをより際立たせていた。
一見地味で、露出も多くない。シルエットばかりが綺麗に映る。そういう服が、この女は過ぎるほど似合う。

昔それとなく褒めたら、薄く笑って「悪い女ほど清楚な服が似合うものよ」と言っていた。なるほど確かに、この女の親友はこんな服は到底着こなせまい。あれが善なる女かと言えば、それもまたリグディは強硬に反対したくなるものだが。

「何お前、わざわざ着替えたの?」

「自警団の格好でうろつくわけにいかないでしょうに。あなただって着替えてるじゃない」

「そりゃーまぁ……なぁ」

「そういうところを買ってるから呼び出すんじゃない、ばかね」

ジルはリグディに流し目を向けてみせた。これがテクニックでしかないことを知っているリグディは、一瞬喉が詰まるような感覚を覚えながらも平静でいられる。が、たいていの男は太刀打ちできないだろうなぁと思った。おそらく、自分と上司と後輩の一人、その三人を除けば世界中の男のほとんどが。それぐらい、この女は綺麗すぎる。

店は駅のすぐそばの路地を一本裏に入ったところにあった。ドアを開けるとギャルソンが「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でいらっしゃいますか」と恭しく頭を垂れた。
ドアを開ける前から門扉の花壇とハンギングのセンスの良さに嫌な予感を感じていたのだが、もう的中だ。室内はほどほどに暗く、席同士の感覚がかなり広く、音楽は生演奏もあるらしいと入り口に書いてあった。その上、ギャルソンの着ているスーツが上等すぎる。この店は、リグディなりの表現で言うと“くっそ高価い”。
椅子を引いてジルを座らせるギャルソンを眺めつつ質のいい椅子に腰掛けて、手渡されたメニューを見る。値段が書いていないのは喧嘩を売っているのだろうか。同僚であるジルとくらべて給料が少ないとかそういうことは決してないのだが、ただリグディには飛空艇という恋人がいる。とても金のかかる、最高の恋人が。

「来月にはまた新しいパーツが出るんだけどな……」

「……他人の趣味に口は出さない主義だけれど、あなたそれだからいつまでたっても一人なのよ?」

「大きなお世話だよ……」

なんて言いながら、ジルだってずっと独り身だ。男が途絶えないのは事実だが、まるで長続きしないのもまた事実。いつもいつも、彼女自身が長続きさせようと思っていないのがあからさまで、傍目に見るリグディにわかるのだから相手の男はもっと深く理解しているはずだ。かわいそうになと他人ごとのように思う。それでも、ルカやジルやヤーグに言わせれば、ジルが続けようと思えない程度の男なのが悪いという。ヤーグに関しては、異を唱えるのが面倒くさいという態度が見え見えであるが。
この女は、相手が誠実であることを要求するくせに、己は相手を決して愛さないのだ。だから、相手が真剣であればあるほど破綻するのに、真剣でない相手はこの女に見つめ返されることさえない。

「私は、そうね……前菜でジュレが食べたいわ。メインはフィレが素敵」

「俺といるときにそんなお洒落なもん食わなくても」

「生憎だけれど、誰といるときにもそんなものは気にしないわ。私は外見イメージと嗜好が一致しているの」

「性格は一欠片も一致しねぇのにな」

「なぁに?優しくないとでも言いたいの?」

「いんやぁ、ドロドロ粘着ストーカー気質」

「食事の席でよくもまぁそんなことが言えるわねえ、尊敬しちゃうわ」

ジルの爪先が、皿の横に並べられた食事用のナイフの刃をカチリと叩いた。たしかに少しばかり口が軽すぎたかと反省する。自分が今害されたとしても、ルカあたりが必死にジルを庇うことになる予感がするので、自分の身は自分で守るべきだ。
というわけで、即刻話題を変更せねば。

「あー、俺はコースでいいや。魚がいい」

「お好きに。あなたも前菜はジュレにしましょう、絶品らしいのよ」

「酒は」

「白。うんと辛いのがいいわね」

こういうときは男性の仕事だろうと、リグディは目配せしてギャルソンを呼んだ。すぐさま現れた彼に注文を伝えると、メニューを手に取り厨房へと引っ込んでゆく。それをちらと見てから、リグディは行儀悪くテーブルに肘をついた。ジルがそうであるように、リグディだって等身大で好きに生きている。レストランなんて場所で、必要以上におとなしい顔をする必要はない。

「で?今日は何があったんだよ」

「別れたのよ。それで、予約を無駄にしたくなかったし」

「……はぁ、なら今日別れなきゃよかったろ」

「どうして?別れたいと思えばその瞬間に別れるわよ、鬱陶しいもの」

「どこまで悩みと無縁なんだ……俺はときどきお前って生き物を人間から遠く離れた何かに感じるよ……」

「あなたそれルカにも言ってるじゃないの」

「カサブランカは実際ちょっと遠いだろ……違う、待て悪口じゃない、あいつは何も悪くありません、ナイフ握るのは早いフィレ来てねぇから」

「……まぁいいわ、今日は許してあげる。ともかく……私にとっては惜しくもなんともなかった。それだけなのよね、結局」

ジルがそう言葉を切った直後、ギャルソンが白ワインをバケツに入れ、さらにカートに乗せて現れた。酒がそこまで好きなわけでもないリグディからすれば、その行動がよくわからない。
ギャルソンは何やら長ったらしい名前を説明し、若いからその風味を楽しんでなんちゃら、酸化しないほうがよくてなんちゃらしゃべり続けた。ジルは理解しているようで、まぁそういうハイソな世界で生きてらっしゃるんだろうと思っておくことにした。現住所は同じなのに、この差はなんなのだろうか。

「んー、……本当に辛いわね、美味しい」

「お前こういう味好きな……」

「あなたにはビールのほうがよかったわね、何その渋面。もともと爽やかな顔はしてないのに尚ひどいわよ」

「お前の発言がよりひどいわ。あー、アルコールが染みる」

「……中年くさい」

「誰が中年か」

いつもどおり失礼全開の発言を軽くいなしつつ、白ワインを口元に運ぶ。柑橘系の匂いがすっと鼻に抜け、酸味と苦味が喉で混ざる。味わうでもない飲み方に、ジルが微かに目を細めたのが見えた。

「……ああ、本当楽ね。びっくりするわ」

「は?」

「いえ……別れてよかったと今また思ったわ。あなたが無作法な真似をしてもね、あたりまえだけどなんとも思わないのよ。でもね、これが所謂“連れ”だとそうはいかないのね」

「あー……確かにな。っていうかさらっとお前はまた、誰が無作法か。俺の好きじゃない酒を頼んでるのは誰だ」

「不思議なものよねぇ……」

「お前ナチュラルに俺の話聞かないね。慣れたけど」

リグディが肩を落とした辺りで、前菜が来た。
四角いジュレの中に、見目鮮やかな野菜が等間隔に並んでいる。野菜からいちいちとったのだろうコンソメの味が強い。やたらと美味かった。
値段のことは今は考えないことにする。

「ねぇリグディ」

「なんだよ」

「男は、女性が馬鹿にできるほど馬鹿な生き物ではないのよね」

「ん……あ?お、おう」

「でもね、期待していいほどには賢くないのよね。これをいつも私は間違えているわ。そして、その間違いを正せない程度の人間しか私には寄ってこないのね」

「……あー、つまり。一見自分の隣に立って不足ない人間だと思って付き合い始めるけれども、途中で欠陥に気付いて失望すると。そして失望させないほど完璧な人間はいなくて、失望しても帳消しになるほど好感を持てる人間もいないと」

「ええ、そういうことね。自分と相手の境界を意識していないから起きる現象よ。その相手を人間として尊重していないということだわ。最初からね。私はたぶん、ルカたちしかそうやって個人として扱えないんだわ」

ふぅ、と極めて軽いため息を付き、また唇へ透明な液体を流し込む綺麗な女を眺めながら、リグディはふむと考えこむ。境界を意識していない、といえば、相手に期待することはすべからくジルの言う現象として当てはまるだろうと思う。誰かに特定の反応を望み、そうならなければ怒りを覚える。ジルほど厳しいのは稀だとしても、多くの人間が陥る現象に思えた。

「カサブランカが男だったらよかったのになぁ?」

「そうねぇ……それなら何の問題もなかったのだけれど」

「いや否定しろや。問題はあるわ、閣下になんて言うつもりだ」

「ルカが男だったら准将に何のお伺いが必要なのよ?」

「あー、いや、うーん……うーん……?」

「何を悩んでるの?ねぇ何を悩むの今?あんたと准将の関係は置いておきなさいよね?」

「何だよその言い方……」

なぜか訝しむような目を向けられ、リグディはたじろいだ。何だその目は。

「ともかく……私は、誰のことも好きにならないのよ。私より何か優れた点のある人間って、いないから」

「例外がカサブランカとロッシュなわけか?」

「……そうね。あとあなた」

「はい?」

「周りを見る能力は評価しているわ。それだけだけど。他は取り立てて何もないわね」

「アッ、ハイ」

「でも難しいもので、優れているから好きになるわけでもないのよね……」

彼女は珍しいくらいに疲れきった目をしてため息をついた。その視線にふと、上がらなかった名前を考える。

「閣下は確かに優れちゃいるわな」

「あ゛?」

「一瞬で沸点超過すんなや。だから、優れてても好きにはならないって話だろ?……しっかし、お前ほんと閣下嫌いだよな。向こうもなかなか嫌ってると思うけど、お前のソレはちょっとおかしいんじゃ……」

リグディが、余計なことと知りつつ言うと、彼女はわざとらしく深い息を吐いて姿勢を正した。
あ、やな予感。リグディの野生の勘が逃げろと言っている。逃げるコマンドを選択しようとするも、しかし伝票に回りこまれてしまった。

「いいかしら?まずもって、あの男は士官学校時代から気に入らなかった。性格の悪さもルカを振り回すところも、腹が立って仕方なかったわ」

「いいかしらって聞いたなら返事を待てよ」

「それから、決定的だったのはやっぱりあれよね。カタストロフィ、って言い方は好きじゃないけれど」

悲劇の結末、そう呼ぶのを彼女は嫌う。ルカも嫌うしヤーグも嫌うし、なんならリグディだって望ましいとは思わない。
あれは結末ではなかった。あれが始まりだったのだ。……それに、たとえ結末だったとしても、あれを悲劇と呼びたくない。感傷の問題だ。

「あのときそちら側だったあなたたちは、それでよかった。けれども、職務に忠実だった私達はまるで反逆者扱い。クーデターってのはそういうものだけどね、気に入らないわ。全くもって、腹が立つったら……」

「それもう逆恨みじゃねーか、っておい俺も一緒くたにするんじゃねえよナイフ置けって」

「嫌よ、フィレが来るもの」

彼女の宣告と同時、確かにギャルソンが静かに彼女の横に立った。また長ったらしい商品名と共に、彼女の前にフィレステーキの皿を置いた。リグディの前には鮮やかなソースで彩られた魚が置かれ、空腹でもないのに腹が鳴ったような錯覚を覚えた。それぐらい食欲の唆られる、少し酸味のありそうなソースの匂いがした。
特に見た目の感想を言い合うでもなく、二人静かにナイフとフォークを握り、旨そうなそれに口をつける。しばし沈黙があった。

「……美味しい」

「だな、こんな旨い魚久々に食ったわ。ファルシ飯から逃げられなくなって久しくこんな旨いもん食ってなかった」

「そうね、……昔が懐かしくなるわ」

ジルは目をすっと細め、虚空を睨んだ。
リグディは、この世界を後悔していない。老衰もなく、新たな命もありえない。希望は一つもなく、ただ静かに迫り来る絶望に抗うだけの世界。
けれど後悔は一欠片もないのだ。それはたぶん、知己が多くこの時代にいるからであったり、もともと執着の薄い人間だからだとか、色々な理由があるのだろうが、いずれにしてもリグディはこの世界をそれなりに受け入れている。
それはジルもヤーグもシドも変わらない。一人だけ、過去にこだわっているのはルカだけだ。リグディはともかく、三人はルカと生きる世界をただそれだけで愛している。だから彼らは強く、強いからこの世界は続くだろう。
それでも、昔を思い出さないわけではなかった。

「リンドブルムに乗ってた頃な、……たまに空を降りると、あいつが酒に誘いに来たなぁ。本当にたまーにだけど、お前らと飲むのは嫌いじゃなかったぜ」

「そうね、本当にたまになんだけど……久闊を叙するなんて真似ができるって思ってなかったから、なんていうか、新鮮だったわね。一瞬だけ学生時代に戻るとか、そういうことに夢を抱くほど俗物でもないつもりだけど」

「小難しいこと考えんなよ。楽しかった、でいいんじゃねえの?」

「……そうかもしれないわね」

ジルは細めた視線をそっと窓の外に投げかけながら、ワイングラスを傾けた。思案顔さえ変わらず美しい彼女は、ここまで話していても姿勢がまるで崩れない。背もたれとの距離は10センチ以下に保たれ、背筋をぴんと伸ばして足は右斜めに揃えられている。
彼女が先ほど自分で言ったとおり、外見イメージと嗜好、行動が完全に一致している女だ。精緻な完成品、そんな印象を与えてくる。
実際口を開けばルカ以外のほとんどの相手を見下しきっているが、そこも含めて一つの魅力として認識させるところはさすがだ。

そんな彼女は、なぜだかリグディに一定以上の好意を示し、こうして時折意味もなく呼び出す。

「なーんで俺を呼ぶかね、しかし……ロッシュだっているだろうに」

「あいつにこういうレストランでの振る舞いとか、レディ・ファーストだとか、そういう細かさを求められるとでも?」

「ああー……まぁ、そりゃあ確かにそうかもしれんが、……いやでも、やろうと思えばできるんだろうに」

「させたくないのよ。私はこれでも、数百年の友情に感謝はしている。……それに、2メートル弱のあいつが頑張って刃渡り10センチのナイフをカチャカチャさせてるのなんて真正面から見るのは嫌よ」

「あんまり感謝を感じない物言いだなお前……」

ほらな、こういう女だよ。
リグディは口角を上げて笑った。

多分、リグディと彼女は少しだけ似ている。要領が良すぎて、こと人間関係に努力を要さないところだとかが。
だから誰かを思うままに操るのは簡単で、得意で、慣れていて、飽きている。

「……ま、たまにはうまいもん食わないとな」

「そうよ。人生にはこういう味が必要だわ」

「必要かぁ?こういうのは人生の余剰分っつーか……上澄みっつーか、そういうもんじゃねぇのかな」

「わかってないわね、上澄みというよりは沈殿物よ。何もかもを失ったあとにでも残るもの。そういうものが人生の真価を作り出すわ」

ジルは遠い目で、テーブルをゆっくりと叩く。その仕草も含めて、彼女はこうして外側だけを眺めればただの美しい女に過ぎない。
それが何で、普段一緒に生活している間は完全に忘れてしまうかなと疑問だったこともあった。けれども今にして思えば、彼女のきつい物言いやマイナス方面にばかりストレートな感情表現がそれを覆い隠しがちで、しかもリグディの上司がいるとそれが目に見えてひどくなる。

「……そういや、お前と閣下さ、何であんな仲わりいの?」

「は?」

「いや、学生時代からお前らひたすら仲悪いだろ。お前らなんとなく似てるのに、何でかなと……」

「誰と誰が似てるって」

「おいだからナイフを置け、肉を切るだけに使えそれは」

「ちっ……」

「凶悪な顔だなぁオイ……」

舌打ちとともにするどくリグディを睨むジルは、フィレの最後の一口をフォークで音もなく口に運ぶ。

「……理由は明快よ。ルカのことを、ああいうふうに扱うからだわ」

「ああいう?」

「粗雑。どこかルーチンワークにすら見える。そういうところが……。いいえ。そうじゃないわね。やっぱりカタストロフィから始まっている気がするわ。あのとき、私とヤーグは少なくともルカのためを思って行動していた。途中までファルシに支配されていたってのはあとでわかったことだけど、最後の瞬間私達は混乱しつつもルカを探していた。でもあいつは、そうじゃなかった。あいつは正気を保ちながら、ルカを無視してた。ルカに救われたのは一緒だったけど、あいつはルカを探さなかった。あの子が帰ってこないと告げたのは、あいつだけだったのに。……それに、あの子は最後、嘘をついた。帰ってくるって言っていた。でもあの男にだけ本当のことを言った。それが、許せなくて仕方ない」

珍しく少し早口に、ジルは平坦に言った。あまりにも途切れることなく続く言葉は、呪詛のようにも聞こえていた。

「あの男にとってはなんてことないと思ったんでしょうね、ルカは。……それでも不快で仕方がないの。だから憎んでるの、呪ってるの、恨んでるのよ。どうしても、許せないから」

「……お前さ。もうちょっと、カサブランカ離れとか」

「できないわ。……できないわよ。ルカはこんな、自立した大人としては間違いすぎた関係を、まるっきり肯定するんだもの」

リグディにはわからないから、ただ旨くもない辛いワインを口に運んだ。えぐ味が喉を突いて、かすかに身震いした。
ジルは窓の外を見ていた。








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