倒錯的エンドライン






ローヒールブーツが軽い音を立てる。こういう時、奴みたいな十センチヒールじゃなくて良かった、と思うのだ。あの子は、そういうの言わないから、足が痛くても平然としてて。私たちで、なんとか座れる場所を確保してあげて、あの子がそこに座ってられる言い訳を考えるのだ。座ってもできる仕事を代わってもらったりとか。そういうことで。
私の周りには、自分の痛みには鈍感な人ばかりが多くて困る。おかげで私は彼らの傷には過敏になってしまって、今だって私がいなくてあの二人が大丈夫なのか考えてるんだから笑えるよなあ。

「待ってください!!」

後ろから、少年の声が響く。振り向くとホープくんだった。はたと見れば、ライトニングもまた意外そうに目を見開いていた。

「ついていきます」

彼は既に息を切らせていて、体力はあまりないのだろうことが伺えた。だからか、ライトニングが少し厳しいことを言う。

「お前を守る余裕はないんだ」

「戦えます。迷わないです」

そういう彼の目には、確かにその色が伺えた。こうやってみんな戦士になっていくのね、大人がだらしないから。今回は軍が頼りないから……と私が少し遠い目をしたとき。遠くで、何かが蠢くのが見えた。黒い影。装備が特徴的だ。

「うわ、抹殺部隊じゃんあれ」

私が辟易とその言葉を吐き出すのと同時に、火薬の臭いが立ち込める。やばい、と思った時には、近くのガレキが爆破され、爆風に足が浮いた。宙を舞い、なんとか体のどちら側が地面か把握し、受身を取ろうとする。が、思っていたよりも、遅い衝撃。これはもしや、と顔を上げると、やはり崖を落ちたようだった。
よく見えないが、上からキンキンと金属音が響いている気がするから、おそらく交戦中。と、頭上で立ち込める砂煙の中から、数人が飛び出してくるのが見えた。
なるほどなるほど、分断成功、ってか?

「いや、あんまり意味無いと思うよ?」

私は転送装置に手をかけ、ハイペリオンの柄を掴む。そのまま引きずり出して、銃を携えた連中に向かって構えた。

「だってそれじゃあ、どちらも生き残れないと思わない?三十六計、なんとやらってな」

そして、開いた間合いを一気に縮め、切りかかった。




「ルカ!無事か!?」

「ぜんっぜん大丈夫ー!そっちは大丈夫?」

お互いに敵は倒し終えたらしく、頭上から声がする。それに応えると、ライトニングは上がってこられるかと聞いた。私は目の前の切り立った崖を見つめるが、上に行くにつれ反り返っている。……私運悪いな最近。無理だわこれは。

「んー……無理だと思うー!とっかかり無いし、ネズミ返しみたいになってるー」

だから後で合流しよう、と言うと、肯定の声が返ってきた。私は彼らに背を向け、違う下山道を歩き始めた。

このまま降れば、おそらくライトニングたちも自分も、パルムポルムに出るだろう。ライトニングはガプラ樹林を通るルートであろうが、私は更に北の山岳地帯のふもとを回り込むことになる。楽とは言えない道だが、まあどこも同じか。せめてエアバイクに乗れれば大分楽なんだが。どこかで奪えないかな。サンレス水郷も近いし、レンタル屋とか無いのかなこの辺。

「……あれ、私そういや軍人だったんだ」

もうほぼ除隊だけど、民間からは奪っちゃダメだな。うん。軍人から奪おう。そうだガプラ樹林も近いしさ、森林監視大隊がいるよこの辺。そいつらからいただこう。うん。とまあ、どの道最低なことを考えながら、私は少し早足になりながら、坂を下る。

ふとコミュニケーターの存在を思い出して開く。と、そこに表示された少しありえない数に、私は一瞬言葉を失った。

「着信三十件て……うわ、絶対怒られる……」

誰にとは言わないが。マナーモードのせいで気付かなかったんだ……。メールも十件溜まっており、ほぼ全てが「連絡しろ」という内容だった。
できるか!怒られるのわかっててできるか!!

スクロールして見ていくと、その内に一通だけ、彼の部下の飛空艇馬鹿からのものがあったのに気づいた。「どこにいんだコラ無能小娘」という短文メールにあまりにイラっとしたので、「お前の知らないとこだバーカお前にだけは捕まらねーぞ」と返しておく。そして衝動的に送ってから、気づく。

「先輩にだけ返信してないのがバレたらもっと怒られるんじゃ……?」

やっちまった、と気づくが時既に遅く。とりあえず、コミュニケーターのサイレントマナーのまま腰ポケットに滑り込ませた。





「……それで?見つけたか?」

「あー……、そのですね、ルシは、見っけたんですが……」

「逃げられたのか?」

「すいません……、まさか、軍駐屯地から飛空艇まで奪って逃げるとは……」

淡い光が窓から反射する、リンドブルムの執務室。一人の男が、椅子に腰掛け上等な机に頬杖を付く上司に平謝りしていた。

「……まあいい。どうせ、すぐに捕まるとは考えていなかったしな。電話にすら出ない」

「え、出ないんすか?メールしたら一応返信ありましたけど」

「……ほう」

「あ、……いやいやいやいや、きっと大将には気まずくて返せないだけですって!!俺にはホラ、うっせーバカみたいな内容で返ってきたんで!ほんと!大した内容じゃないんで!!」

後ろに暗いオーラを纏いながら微笑む彼に部下が必死にフォローする。と、目の前の彼は、浅くため息を吐いて、「構わんさ、あれの逃亡癖には慣れている」と返した。

「ああ、仕事放り出して逃げてきたことありましたね……」

「パーティーからもよく逃げた。今度は私の説教から逃げ回っているというわけだ。全く、困ったものだな」

そう言って彼は立ち上がる。そもそも部下は、捕らえたルシの輸送が完了した、と報告をしに来たのだ。そちらへ向かおう、ということだろう。

「ルシはヴァイルピークスに落ちたようだから、彼女はノーチラスかパルムポルムへ行くだろう。だがまあ……、このタイミングで遊びに行くほどの馬鹿では無いだろうし、パルムポルム周辺へ舵を取るように伝えてくれ。上で待っていれば、いずれ来るだろう」

「……もし、遊びに行っちゃってたらどうします?」

「ああ、そのときは……説教を倍にしてやるさ」

上司が少しだけ疲れたような表情をしたのに気付いた部下は、はは、と乾いた笑みを返しながら、執務室を出る彼に続いた。後ろ手に、「おい閣下が疲れてきてる、頼むからパルムポルムに来てくれ」と、彼女にメールを送り返しながら。









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