「うわぁぁああん!!」

シンクとケイトが連なるように教室に雪崩れ込んできた。ケイトはともかく、大声で叫ぶことなどほとんどないシンクの悲鳴が聞こえ、エースは珍しい事態につい午睡から顔を上げた。二人は教室に走りこむやいなや、阿吽の呼吸でドアにかじりつき開かないよう押さえている。

「……何なんだ一体?」

寝ぼけ眼でエースが問うと、黒板を消していたエイトも教卓の下でレムと談笑していたデュースも振り返って首を傾げる。しかし直後、読んで字の如く謎は氷解する。ドアはみしみしと嫌な音を立てて押されているようだった。扉の向こうから、この世のものとは思えない低い声が聞こえてくる。

「花瓶を割ったのは……シンクか……?」

「ひっ!?」

「窓を割ったのは……ケイトだな……?」

「わっ、悪気は、悪気はなかっ……」

「問答無用!!」

そして突然、僅かな隙間を押し広げるように氷剣がドアを貫き、ブリザド魔法が地面から文字通り“生える”。扉を吹き飛ばして入ってきたクラサメは、地面に崩折れた二人の首根っこを掴み、ずるずる引きずりながら出て行った。あんな顔してた像どっかで見たことあるわというくらい、凶悪な目つきをしていた。
それを無言のうちに見送り、エースは前に向き直る。と、同じく視線をそらしたクイーンが乾いた笑いを漏らす。

「蒼龍の北端の方にですね……なまはげという、伝説があるそうですよ……」

「へぇ……」

「包丁を持って、悪い子はいねぇがーってやってくるんですって……」

「クイーンは本当物知りだな……」

「ありがとうございます……」

その日教室にいた0組の間では、バーサク状態に陥ったクラサメ隊長をなまはげと暗喩することがひっそりと決定した。誰か(主に先述の二人とジャック、ナイン辺り)が悪さをするたび、キングがぼそりと「なまはげ呼ぶぞ」と言うようになったのである。会心の一撃である。
そしてケイトとシンクは二時間後説教から戻ると、何もかもが抜け落ちた顔で花瓶と窓の修繕に入った。魔法を使い直していく様は見事なもので、そういえばケイトは魔法の扱いは相当得意だったことを今更思い出した。
更に誰に言われるでもなく、クラサメによって文字通り木端微塵のドアを静かに直し始めた。さすがに粉砕されていると花瓶や窓のように簡単にはいかず、見かねてエイトやトレイ、キングが手を貸そうとすると、「ころされる」「生きたい」などというわけのわからない理由で断られた。後に聞いたところ、ドアを二人だけで直すところまでが罰則だったのだという。「0組に手伝わせたら、……わかっているな?」最後の念押しの頃にはもう正座で足が限界だったのだとか。どこまでも自業自得ではあるのだが。
そしてこの一件により、魔導院の設備に傷をつけることは0組の最大の禁忌となり、マザーに「あなたたち、魔導院に来てからやんちゃさんは卒業したのね?」なんて褒められる結果となった。やんちゃだったのはケイトとシンクとジャックだけだ。ナインはまた少し違う。
ちなみにケイトとシンクがもろもろ割ったのは廊下でのメイス野球の結果であり、その点もなまは、……クラサメ隊長に死ぬほど搾られたそうである。当然、その日のホームルームで廊下での野球遊びは禁止された。「そんなのつまんないよ〜!」と自爆したジャックもまた、現行犯でもないというのに説教の刑となった。ボムもびっくりの自爆である。

「……エース、昼休みに書庫で蒼龍の図録になまはげを見つけました」

「知らなかったよクイーン、君がそんなに死にたがりだなんて」

「それで、あの、怒った顔は思いの外似ていました」

「わかった君は僕を巻き込みたいんだな?その手には乗らないぞ」

「あなたたちー、次の時間は訓練場になったよー……ってあれ?なんかドアすごく綺麗じゃない?」

教室に顔を出した副隊長は驚いて目を瞠ったが、経緯を聞くとエース同様乾いた笑いと共に視線を逸らした。彼女もなまはげ経験者だという。彼女の叱られた話を聞いて、世の中には怖いものがたくさんあるのだと思い知る羽目となった。

そしてこの一件の裏事情はカヅサを経由してすべてクラサメに筒抜けになるのだが、それはまた別の話。







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