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まだ午前中、講義の合間、ほんの僅かな休憩の時間。
ナツメは0組の教室で教材の用意をしていたし、0組はそれぞれ思い思いに過ごしていたし、クラサメも教卓脇の椅子で静かに次の授業の用意をしていた。
そろそろっとナギが入ってくるまでは。

グッモーニンお前ら!今日も火急のミッションが湧いたぞ!

いつもならそんな調子で入ってくるナギだが、果たして今日は、足音を消して、存在も消して、ゆっくりナツメに近寄った。
トントンと肩を静かに叩いたので、ナツメはむしろ驚いた顔で振り返る。

「な、何……」
「これやる」
「……?え、何?ほんとに何?」

ナツメにそっと握らせたのは500ギルだった。
何でだ。

「お、お小遣い?」
「いいからこれでちょっと遠く行け」
「は……は?遠く?何でよ」
「いいから。これもやる」

ナギは更に、歯型のきっちり残った食べかけのチョコボまんじゅうを手のひらに載せた。
本当に何で?

ナツメは返す刀でまんじゅうをナギの顔面に押し付け、「一体何なのよ」と重ねて問う。
だがナギはといえば、あーだのうーだの唸るばかりで要領を得ない。一体なんなのだこいつは、そう思う暇を縫って、第二波が0組教室を訪った。

ナツメナツメナツメナツメ!!!」
「あんた水臭いじゃあん!あんな旦那がいるなら紹介してよ!!」

げらげら笑いながら現れたのは、四課の武官服を着た二名の女性課員であった。ナツメはその姿を認めた瞬間、腐った死体でも見たときのようにうっと顔をしかめたので、あまり会いたくない相手であることは間違いない。

「何よ、何なの?旦那?」
「あー……」
「……ナギ、ちゃんと説明して。意味わかんないんだけど」

ナツメが苛立ち混じりに言うと、ナギは一瞬以上悩む素振りを見せたが結局、「まあ俺もこれは正直掘りたくて仕方なかったしな」と懐から一枚の写真を取り出す。
すでに注目されきっていたナギの手元に0組の視線が集中し、それから誰かがうっと呻いた。

「なにこれ」
「お前の寝顔」
「いやそうじゃなくて」
「お前の寝顔の写真を後生大事に持ってた将校を捕虜にしました。なお、この写真を取り上げる際、妻の写真を返せとさんざ喚かれました」
「……ああー……」

ナツメは一瞬ぽかんとしたあと、得心がいったといった顔でうなだれた。

「ああーじゃないが。どういうこと?説明してみ?」
「いや違うの、話すと長くなるけど旦那なんていない、結婚なんてしてない!」
「じゃあどういうことなんだよ」
「いや……あの……でも……ここで話せることかどうか……」
「何?R-18だって言いたい?あら」
「あらあら」
「面白そう」

言いよどむナツメに、ナギと四課の二人は勝手に盛り上がり始める。四課なんて下衆な会話しかしていないので、平常運転でこうなのである。

「……待て。授業を始める、部外者は出て行け」
「クラサメさんこの流れ放置で授業できる!?マジで!?こいつどうせ後で問い詰めても本当のこと話さねぇよ!?」
「……」

クラサメはじっとナギを睨みつけた。果たして、動じないナギは「じゃあこうしましょう」と手を叩く。

「ここで話さないならナツメは尋問室行き」
「はああ!?」
「何驚いてんだ当然だろ、そりゃすでに嘲弄もんだけど事実だけに整理したらお前には今敵国将校と婚姻関係を結んでいた疑いがかかってんだからな。内務調査の対象だわ」
「いやっ、それは……だから結婚なんてしてないんだって!!」

そういう話になってくると、クラサメも尻込みする。クラサメだって四課の尋問室がどういう場所なのかは想像もつかないからだ。
実際のところ、ただちょっと血痕が多いだけの普通の部屋なのだが、それを知っているのはこの場に四人しかいないし、ナツメだって尋問室に入れられたいわけではない。

もう話すしかない。ナツメは不承不承、口を開いた。


□□□□□□


もう三年は前のことだと思うんだけど。
確か三、四人殺すよう言われて、白虎に入って、イングラムに着いて……それから、いつもなら一旦、どこかホテルに泊まるんだけど、そのときは空いてるホテルが見つからなくってね。
仕方がないから、酒を出すところで時間を潰そうとしたのね。
それが、列車を降りた場所が悪かったのよね、飲めるところもなくて。結局、裏通りのバーに入ったら、そこがうっかり、ストリップバーだったのね。


□□□□□□


「待て待て待て待て」
「なによ」
「この話続けて大丈夫なやつ?」
「機密とかには触れないわよ」
「いやそうじゃなくて……」

ナギの静止も聞かず、話は続く。


□□□□□□


でもまあ、ストリップなんて盛り上がってるのはだいたい前列だし、後ろの方のボックス席にでも籠もってればただのムーディなバーだから。
しばらくそこでウォッカを舐めてたんだけど、


□□□□□□


「三年前はお前は未成年だろうが!!」
「クラサメ唐突に正論で話の腰折らないでよ、っていうかそこなの気になるとこ?」


□□□□□□


……しばらくウォッカ舐めてたんだけど。
明け方になって、騒いでた軍人連中が店を出るんで、店が閉まる時間になっちゃって、軍人たちと纏めて外に追い出されたのね。で、そのとき、ついうっかり近くにいた軍人の一人の財布をスりとっちゃったのね。
ああしまったまたいつもの癖でやっちゃった、そう思って急いで離れたんだけど、その軍人すぐスリに気づいてさあ。部外者が私しかいなかったもんだから、追いかけてきちゃったのね。
路地裏を使って撒こうとしたんだけどうまくいかなくて。結局追いつかれたんで、仕方なく対人格闘に持ち込んで。
どうやったかはあんまりしっかり覚えてないけど、たぶん肘鉄して膝を横から蹴って、崩れ落ちたところに膝蹴りいれたんだと思うんだけど。

そしたら男が、うっと呻いて、崩れ落ちて。飲んでたからやっぱりだいぶ動きが鈍かったんだけど。
様子を窺ってたら、また立ち上がって襲いかかってきて……足りなかったかと思って、もう一回膝蹴りを叩き込んだら。

私そのとき、ミニスカートだったの。
だからね、ストッキング履いてたんだけど。

ストッキングになんか、液体がついて。血だとは思ったんだけど、いまいち……違う気がして。

崩れ落ちた軍人を見たらね……射精してて……。


□□□□□□


「待て待て待て待て!!?」
「だから何なのよ」
「この話どこに着地すんの!?」
「その男が私を妻だと言い張るところ」
「決着見えないけど!!?」
「いいからもう聞いてなよって」


□□□□□□


しばらく私も完全に固まっちゃったわ。いくらなんでも、蹴り入れた瞬間に射精した男なんて聞いたこともなかったし。
でも少しして、男が、「黙っててくれ」なんて言うから、まあ……強請れる気配を感じてね……。
代わりに金を巻き上げようと思ったの。そもそも言いふらす相手なんていないんだけども。

そしたらその男、「なんでもするから」とか言うのね。いやなんでもしろなんて言ってないんだけど、お金さえ差し出せばもうそれでいいんだけど、なんせ足には知らない男の精液がついてるし着替えたいし早く話を終わりにしたかったんだけど。

私も、正直お金を調達するより、完全に手下にできる人間がいたほうが楽なのは確かだから。
じゃあ利用するかって思ったんだけど、男があまりにもその、踏んでほしそうだったから、踏みつけてみたら、嬉しそうな悲鳴が……。


□□□□□□


「怖い怖い怖い怖い!!」
「私も怖かったよ」
「いや全然平気そうじゃん!?全然通常運転だよね!?」

エースが悲鳴を上げ、ケイトがナツメに迫ったが、ナツメは無表情で虚空を見つめ、思い返しているようだった。


□□□□□□


その男が白虎将校で、そこそこいい家に住んでたので、皇国に用事があるときは家を使ってたのね。
もちろん男となんら関係する気はなかったから、縛ってバルコニーに放り出したりしてたんだけど。
その写真は多分、そのときに撮られたものよ。寝てるところには入れないように厳重に鍵かけたりしてたんだけど、向こうは家主だものね。私がいない間に家を改造したんじゃないかなあ。
でも何もされてないし、向こうは年下の女にいいように操られるっていう状況に興奮してるだけだから。たまに踏んだり殴ったりしてるだけで言うこと聞くし便利で。

結婚については、あれよ、勝手に届け出を出してたのね。私何も書いてないし、知らんけど。
でも白虎国内の私の籍ってその辺の裏通りの売店で買ったやつだし、公文書偽造だし、全く、何一つ意味はないと思うんだけど。問題がありそうなら新しく戸籍買うだけだもの。

知ってはいたけど、そんなことで揉めるのも面倒だし、殺すか迷ったけど、実害なかったから。
実害が出たら?それは殺すよ、当然でしょ?


□□□□□□


「というわけで、殺してくる」
「待て待て捕虜を殺すにも手順ってものがあるから」
「あんなイケオジ風味なのにドMって面白いからあたしにも虐めさせてよお〜」

椅子を立ち上がり教室を出ていくナツメを、笑いながらナギたちが追う。その背中を見ながら、ぽつりと誰かが言った。

「ほんとに四課って謎……」


□□□□□□


「にしても、マジで何で殺さなかったんだよ。実害なかったからだけじゃないだろ、お前不愉快だなって思ったら殺すほうじゃん」
「人を殺人鬼みたいに」

ナツメは短く舌打ちし、それから一瞬考えるような仕草を見せて、

「だってあいつ、私が何者か気づいていたはずよ。あいつを使って情報を集めたこともあるもの。でも私を殺そうともしなかったし、報告もしていなかった」

そう言って笑った。
葛藤がなかったかはわからない。自分がしていることに恐怖がなかったかどうか、ナツメには興味もないことだ。
いずれにしても。

「国防より自分の欲求を優先した。そういうバカは、敵にいるぶんには嫌いじゃない」

それだけのことだった。
ナツメの結婚疑惑の顛末はそういうことで落ち着いたが、このあと件の捕虜は解放され、白虎に戻ることとなった。
そしていつか戦争で死ぬまで、男は四課の情報源であり続けたというのもまた、一つの事実なのであった。






もうちょっと気持ち悪いドMにしたかったけど、キャラが濃くなるのは困る
悩みどころですね!


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