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その一瞬の金色を覚えている。
森の奥深く、親が強く掴んだ腕、木々の狭間の向こうにちらつく白いテント。その布の隙間からこちらをじっと見ていた緑の目と金色の光。
一瞬だけの煌めきが、たしかに交差した。真夏の稲光みたいで、すぐに散って見えなくなるのがあまりにももったいないと思って、子供ながらに己は、それを満足いくまで眺めていたい欲求を覚えたのだ。






アブスターゴ社。

アメリカ、ロサンゼルスに本拠を置く、今や世界でも最有力とされる一大グループの親会社である。
始まりはなんだったか、ナツメは記憶してすらいないが、IT関係だったことは覚えている。今一番流れに乗っているのはいわゆるゲームソフト開発部門で、過去の戦争や偉人の人生をそっくりそのままなぞるゲームシリーズが特に人気を博している。
これもまたナツメは公式ホームページに載っている情報以上には詳しくないのだが、細部までよくできていると、歴史学者が舌を巻く出来だと聞く。
とはいえ発見されたばかりの書簡やらが、既に発売されているゲームに登場済みだったりするのは、さすがに技術班のミスだ。万全を期しても、まだ判明していない事実を載せてしまうのは案外よくあることのようだ。

そう、事実。あのゲームで語られていることは、ほとんどが事実である。
もちろん全てではない。そもそも以て、大筋が異なる。最も大きな改変は、とある組織がまるきり語られていないことだ。
ナツメはそれだけを知っている。物語の裏側だけを。

ナツメ、薬だ」

「ええ」

「わかってるな?必ず飲め」

半ば保護者の人間が同じ会社で働いているというのもいやなものである。昼休みのタイミングを狙って、カトルは一週間に一度、一人で仕事をしているナツメの元に薬を届けに来る。ピルケースにぴっちり日付と時間毎に仕切られて同じ色の薬が並んでいる。これが何の薬なのか知らない。ただ従うのみだ。
一回二錠、一日三回。必ず八時間ごと。七時、十五時、二十三時。逆らえばどうなるかは経験済み。

グラフを見て、被験者のデータを打ち込み、ヘリックス電脳にシミュレートさせ結果を見る。あとどの程度で被験者が狂うか壊れるか。そこから推察して、壊してもいい人間は最大限まで情報を引き出し、長く生きていてもらわねば困る被験者は実験休止もする。その繰り返し。

アブスターゴが歴史学者も知らない事実をなぜ知っているのか、それはこの実験に由来する。
アニムスと呼ばれる、遺伝子より抽出した記憶を疑似体験させる機器に被験者を載せ、被験者のDNAより適切な祖先をサーチし意識をスライドさせる。被験者は祖先の中に入り、彼らの記憶を内側から見る。そしてそれを、アブスターゴは記録するのである。

「(……NO.2097……そろそろやばそうだな……)」

ナツメは彼らの顔を知らない。知っているのはストレス耐性のグラフと、各実験ごとに付与されるストレス値のみ。名前も年齢も性別も、どんな時代を生きて何を見て経験したかも知らない。
何も知らないから、ただデータから推察するばかり。

NO.2097はストレス耐性が元々高く、異例なほど高い頻度で実験も繰り返している。けれどここ数回、突然ストレス値が格段に上昇してきている。
これだけ耐性の高い被験者は珍しいし、メモリーの重要度もAクラス。死なせるわけにはいかないだろう。

ナツメは実験休止の申請を出す。そこに感情はない。被験者が生きるか死ぬかなんて考えるのは、楽しいことじゃないからだ。
最初のうちはこんなじゃなかったなと、水筒に詰めた紅茶を飲みながら思う。最初の頃は気になったのだ。彼らがどんな人間なのか。どうして被験者になったのか。どこで捕らえられてしまったのかとか。
どこで生きてきたんだろうかとか、家族はいたのかとか、友達は心配しているんだろうかとか、そういうことを。

「(考えても、無駄だしな……)」

ストレス耐性の数値からいろいろ考えてみたけれど、ただの折れ線グラフから読み取れることなんてそう多くはないのだ。
それに彼らのことを考えると、自分のことを考えてしまうから。
決められた学校に入って、卒業したら決められた会社にいれられて決められた部署に配属されて、決められた仕事をして。
決められた時間に起きて、決められた時間に中身も知らない薬を飲んで、決められた時間に報告を上げる自分は、被験者ととても似ている。死なないだけマシなのかもしれないが。

そんな何もかもが嫌になりそうで、ナツメは何も考えないよう自分を叱咤する。嫌になったらダメだ。
ナツメは指を暫し止め、沈黙した後仕事を再開させようとする。

その瞬間だった。

「……?」

背後に視線を感じ、うなじにぴりりと嫌な予感が走る。部屋に虫がいるときみたいな気配だ。
とっさにナツメは振り返った。振り返りながら、思考が頭を駆け巡る。ここは地上二十階で、背後はすぐ窓で、誰もいるはずがないのに。虫だって入ってこないのに、なんでこんな嫌な感じが。

だが振り返った瞬間、目があった。

「……、」

顔はほとんど見えなかった。ただ翳る緑の目が爛々と殺意をたたえ、こちらを見ていた。その男は、窓の外、窓枠の上部に片手でぶら下がっていた。

アサシンだ。
直感的に理解した。

アブスターゴの物語では語られない者。歴史の真実の裏を暗躍する者たち。死ぬべき者たちを殺してきた、影の役者。
彼らは今もまだ生きていて、アブスターゴは彼らを利用し、使い潰すためにもアニムスを稼働させている。先人の遺産を争って奪い合いながら、今でも戦いは続いている。

そのアサシンが、窓の外にいた。動けないナツメを睨めつけた一瞬が永遠にも思えた。
殺される。そう思った。殺意が間違いなく頬を舐めたのを感じた。

けれど。

「え……」

一瞬の後には、彼は消えていた。上に?下に?それすらわからないほど一瞬だった。
あまりにも霧のごとく忽然と消えたので、もしや白昼夢だったのではと思ってしまう。
けれど。

ナツメはおそるおそる立ち上がり、窓際に寄る。窓にはまだ、今去った男が残した、吐息の白い影が残っていた。

夢じゃない。確かに今、ここにアサシンがいた。

「……」

私を狙っていたのか。
ナツメは立ち尽くし、考える。でもなぜ、殺さなかった?この距離だ、銃弾一発で窓を破りナツメを殺せたはず。
それが、どうして。

「……どうして」

ナツメは戸惑いながら、席に戻る。そしてそこで、申請が却下されて戻ってきていることに気付く。
そんなバカな。ナツメはこの仕事を初めてもう三年以上になるが、この申請が戻ってきたのは初めてだ。だいたい、別に大したことじゃないのに。数日実験の休養日を設けることでただちに実験に支障をきたすわけがない。
それがどうして、こんな。

それにアサシンはどうして、ナツメを殺しに?

「……」

戸惑いながら、ナツメは立ち上がる。
その瞬間、十五時のアラームがけたたましく鳴った。薬の瓶が、ナツメの指に弾かれて倒れる。机の上に錠剤がこぼれ落ちていく。
すぐに飲まないといけないとわかっていた。飲まないと、ナツメだって実験動物にすぎないんだから、いつそういう目に遭うかわからないじゃないか。

でも、飲みたくなかった。

唯々諾々、従うだけの自分を見られた。あの緑の目に。


それが、吐き気がするほど嫌だった。
あれが男だったか女だったか、何もわからないのに、あの目にこんな自分を見られたことが、泣きたくなるくらい辛い。自分の心がわからないけれど、それでもここに座り続けることができない。
全てを理解するには、たぶん私の人生では短すぎるから。

「……ああ、もう!!」

ナツメは机の端のジャケットを拾って部屋を飛び出す。

カードキーのネックストラップを首に引っ掛けて、エレベーターを目指す。ナツメはキーだけはそれなりに上位のものを与えられているから、実際には実験区画にも入れるはずだ。そんなことしたら殺されかねないと思って、今まで一度も入ろうとしたことはないけれど。

二十二階、エレベーターを出たナツメは走り、警備の人間の止める声を振り切ってアニムスを目指した。
どうしてかわからないけど、行かなきゃいけないと思った。

元からわかっていたことだ。何もかもがおかしい。説明のない薬を飲まされていることも、きっかり八時間ごとと決められているのも。
ナツメはたぶん、ずっとこうしたかった。守るためと連れてこられたあの日、全ての最初から。

実験区画に飛び込んで、アニムスを探す。大体のかたちしか知らないが、今はアニムスも進化して、祖先とのシンクロ作業は脳波測定と遺伝子情報だけで可能と聞いたことがある。であれば。
パソコンにしては大きすぎる機械と、大きなデスクトップを見つけた。そのすぐ真横に、血液をたらしこんでDNAを解析する装置がつながっている。これだ!

ナツメはかじりついて、一瞬躊躇った後ジャケットの留め具を手のひらの血管目掛けて刺した。そしてすぐにDNA解析を始め、記憶を調べるためのバイザーを引っ張り出す。
記憶さえ見れば。
記憶さえ見ることができれば。

私は、私が何者なのか知ることができるはず。

そう思ったのに。
突然ブザーが鳴り響き、解析不可とエラーが表示される。大量のニ進数が画面に吐き出されていくのを呆然と見送った。
どうしてエラーが。どんな人間のDNAも、絶対に誰かにつながっているはずなのに。こんな話、聞いたことが、

ナツメ

「……」

「お前にアニムスの使用を許可した覚えはない」

「……カトル」

振り返ると、白いコートを羽織った男が警備員を引き連れて立っていた。今までに見たこともないくらい、感情の篭もらない冷たい目で、カトルはナツメを見下ろしている。
警備員もかなりの人数がいる。このフロア全員より多い筈の人数だ。他フロアの警備員まで召集されているのだろうか。
それにしても、速すぎる。ナツメがここにいることを知ってすぐ駆けつけたんでなければ説明がつかない。

「薬は飲んだんだろうな。なぜここにいる。お前の仕事は被験者の管理だ。実験区画に入る必要もない」

カトルの声は、天井の高い部屋にやたらと響く気がした。それをぼうっと聞きながら、ナツメはただ固まっていた。
自分がこんなことをした理由もよくわからないし、この結果がどうなるのかもわからない。……いやわかっている。わかっているのに、頭が働かない。
カトルは何やら、延々とナツメに話しかけている。聞こえているのに、意味を持ってナツメの中に入ってこない。

呆然としていると、左の方から、警備の声が響く。驚いて視線をやると、警備の手を振りほどき転げるように飛び出した姿があった。

そこにいたのは、一人の青年だった。
ぼさぼさの紫紺の髪がまず目について、それから平均よりやせ細った腕が見えた。年の頃はナツメと同じくらいだろうか。目の下には隈が浮き、正確には判別できそうになかった。
彼は地面に両膝と片腕をつき、荒い呼吸を繰り返していた。必死の形相で顔を上げて、彼は立ち上がろうとしている。
ついとっさに手を貸そうとした直後に、警備の人間が彼の二の腕を掴んだ。その瞬間、手首にくくられたタグがちらつく。
2079。

……NO.2097?

「ッ離せぇぇぇ!!オレはッ、オレは……ッ!!行かないと……!!レムーッ!!」

「いいからアニムスに戻れ!処分されたいのか!!」

「レム!レム……!!」

ついさっき実験の休止を却下されたNO.2097が、何事か叫びながら両脇を抱え込まれて連れ去られていく。ナツメはそれを呆然と見送って、己の両手が震えているのに気がついた。

見てしまった。
今まで一度も見なかったものを、見てしまった。

こけた頬、なりふり構わず唾を飛ばして叫ぶあの顔。自分が終わってしまうと悟って、それでも抗おうと戦う目。
あれは末路だ。

この寒い灰色の世界の、最果てだ。
私がいつか、至る。

「全く騒々しいな……だが、お前もあまり好き勝手すると、ああいう目に遭いかねない。わかるな?」

カトルが言う。
そんなことをいまさら。

わかりきったことを。いまさら。

平然と。
言うので。

わりといらっとした。

「うるせぇロリコン」

「なッ……」

「こっち見んなロリコン、ペッ」

ナツメは舌打ち混じりにメンチを切り、硬直したカトルの横をすり抜ける。無言でエレベーターを動かしながら考え事をした。


さて、末路を見てしまった。運命の最期を見てしまったら、もうこのままこの道を進むことはできない。
どこからやり直そう。カトルに引き取られたとき?それとも、アブスターゴに言われるがままの進路を選んだ時点から?
少なくとも、あの緑の目に射竦められて、ナツメはこのまま生きていくのが嫌になった。ナツメは戦う覚悟を決めた。

テンプル騎士に、アサシン教団が逆らい続けているように。



アブスターゴ社は、テンプル騎士団が作った会社だ。テンプル騎士団はもともと、第一次十字軍に端を発する。神話に語られるような、神の遺物を集めるために始まった。
一方で、アサシン教団はもう、いつからあったのかすらよくわかっていない。彼らはテンプル騎士から遺物を守るためにあり、遺物を隠し保管しながらテンプル騎士に抗い続けている。

テンプル騎士団の目指すものは画一的、均一的な世界。自由意志は戦いを呼ぶから、完全な予定調和をテンプル騎士が描くということ。
アサシンが目指すのは、無法地帯だとカトルが前に言っていた。

無法地帯。平和のない世界。
誰にも支配されない代わりに、誰にも守られない世界。

私は、支配されたくなかった。きっとわかってもらえないと思ったから、誰にも言わなかったこと。




ナツメは自室に飛び込んで、荷物を纏める。一瞬迷ったが結局薬もバッグに放り込み、すぐさま部屋を飛び出した。
今度はエレベーターで下層に降りる。一階、エレベーターを飛び出しエントランスを突っ切って外に出る。フェアファックスのクリントンストリート、夕方になる前の時間帯、ナツメは片手を上げてタクシーを止めた。開いたドアから車内に滑り込み、運転手に適当な指示を投げる。

「できるだけ早くロスを出て!」

アサシンとコンタクトが取れる可能性があるとすれば、彼らに縁のある場所を探すしかないが、候補全てテンプル騎士の手が回りきっている。
だから、可能性に掛ける。
ナツメを殺そうとしていたあの目に。

ナツメが一人になれば、暗殺しやすい場所にいれば、向こうからやってくる可能性もきっとある。
ロスは掃き溜めの如く人が多い。一人になるには、郊外まで行かないといけない。
焦りが心臓を内側から叩く。悲鳴を上げそうになりながらも、ナツメは懸命に耐えた。

タクシーを降り、郊外のモーテル、現金で部屋を取る。カードは追跡されてしまうから使えないし、もう金もおろせないだろう。キャッシュカードを使えばやはり足がつく。普段からいくらか持ち歩いていてよかったと安堵の息を吐いて、ナツメはモーテルのベッドに腰を下ろした。
そして、暫時の沈黙。ナツメは目を閉じ、張り詰める空気に意識を溶かして、集中する。
背後に金色の光を感じた、気がした。

「……こんばんは」

当て推量で挨拶の言葉を放つ。背後の金色はわずかにたじろいだようだった。
私は立ち上がり、振り返る。ベッドの上、通気口から降りてきたらしい男がそこに立っていた。

「とりあえずベッドから降りてくれる?」

「……ああ」

男は目深にフードを被り、口許には金属製のマスクをつけていた。顔はほとんど見えず、緑の目もまた見えなかった。けれど、さっき窓の外にいた人間だと妙な確信があった。
ナツメは備え付けのテーブルから安っぽいスツールを引き抜き、そこに腰掛ける。男はベッドから降りて、ナツメを見つめていた。

「私を殺しにきたのよね?」

「ああ。だがもし、我らの要求を飲み、命令に従うのなら殺しはしない」

「一応聞きましょう」

彼はフードを脱ぎ、ナツメをまっすぐ見下ろす。改めて見る緑の目は透き通り、とても綺麗だと思った。

「アブスターゴに捕われているある男の実験を停止してもらいたい」

「彼を解放しろ、ではないのね?」

「そんなこと一研究員ができるわけがない。だから実験の休止だけでいい。その間に襲撃を掛け、我々で救出する」

そう言って、男は一枚の写真をナツメに見せた。数名が写り込んでいるそれを受取り、見つめる。
写っている人間全てがまだ若い男女だった。そのうちの一人に見覚えを感じて、ナツメは慌てて顔を上げる。

「もしかして実験を停止したいのって……」

「左端の男だ。名前はマキナ・クナギリ」

「……そう。マキナっていうの、この子」

知っている顔だった。青にも見える黒い髪。写真ではちゃんと筋肉もついていて、健康そうな顔をしているが、つい先程警備員を振り切って逃げようとしていた男だった。
NO.2097。……そうか。あの青年は、アサシン教団の人間だったか。

ナツメは目を伏せ、静かに首を横に振った。

「無理よ。彼の実験は止められない」

「それは、事によってはいますぐにでも殺されるとわかっていての発言だな?」

「あなたが窓の外にいたとき、私は彼の実験休止の申請を出していたわ。それがなぜか却下された。普段私が申請した実験の停止は、まず問題なく通る。却下されたのは、私の知る限り初めてのことよ」

「……なんだと?それはなぜだ」

「私もその理由がわからなかったけれど、あなたに会えてわかった。彼がアサシン教団の人間だっていうなら、きっと彼の遺伝子記憶に神の遺産についての情報があったんだと思う。それを急いで見つけたいから、彼のストレス値も無視して実験を進めてるんでしょうね」

「ちっ……どうにかならんのか」

「ならないわね……というか、なんとかなったとしても、一度却下されている以上もう一度申請したところで時間がかかりすぎる。あのストレス値から思うに、すぐ実験を止めさせないと最悪死ぬかもしれない」

ナツメの言葉に彼は激高した。怒りはナツメに向き、ナツメの鎖骨の辺りを掴んでベッドに引きずり倒される。
その目に浮かぶ憎しみを見た。

理解できなかった。
人は死ぬものだし、いなくても大概支障ない。そういうもの。ナツメの周りにいるのはそういういきものだけ。ナツメもまた、そういういきものに過ぎなかった。

だからそんなふうに想ってもらえる彼を羨ましく思ったりも、したりして。

「……彼を、助けたいのね?」

ナツメが問うと、ナツメの上で彼は目を見開き、舌打ちをした。それから、「そうでなければ、お前など追ってきていない」と言った。でしょうね。

「そう。わかった。……協力する。私じゃ実験は止められないけど、侵入の手引、脱走ルートもなんとかしてみせる」

「……なぜ?なぜお前がそこまでする」

望まれた以上のことをしようとするナツメに、アサシンは目元に戸惑いをありありと浮かべた。
そうだよな、とナツメも内心思う。そこまで手を貸してしまったら、ナツメも充分テンプル騎士の敵だ。殺されても文句は言えない。

「だから、代わりに……」

条件があった。それさえ満たしてくれるなら、これからずっと逃亡するだけの生活になっても不満はないと思った。いっそ、カトルに殺されてもいい。

「代わりに。彼を助けたら、あなたがたのアニムスを使わせて」

私が何者か知るために。
ただそれだけが、今は望みだった。

彼はしばらく沈黙していたが、ナツメの表情が変わらないのを知ると、ため息混じりに言う。

「約束はできんし、それによってお前がどういう立場におかれようとも守りはしない。テンプル騎士でなくなった人間になど、私たちにとっても価値はないからな」

「ええ。わかっているわ」

「それなら、いいだろう。マキナを救うのに協力してもらおう」

彼は起き上がり、ナツメに手を伸ばした。その手をとって立ち上がり、ナツメは微笑んだ。

「ならば行こう。道すがら話を聞く」

そうして、ナツメとアサシンは共同戦線を張った。
アサシンは、名をクラサメと名乗った。





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