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その日、午後、ナツメとナギは共に0組の教室にいて、ナツメは授業の補習を行い、ナギは前回のミッションコードクリムゾンの作戦後の経過について0組に伝えていた。何の事はない、静かな午後だ。特別なことなど何もなかった。
教室後方の大扉が開かれるまでは。

「ハーイうちの貞操観念ガチガチ組よ覚悟しなさぁい!!」

「四課恒例☆箱の中身はなんだろな!のコーナーが今日も今日とてこっちからやってきました」

「逃げられないよ☆」

飛び込んできたのは、ベニヤ板に滑車をつけてその上に机を括り付けた謎の台車に乗っかった数名の四課であった。
そして、ナツメとナギはその姿を認めるや否や、スッと表情を消し去った。
二人は静かに元いた席を離れ、音もなく四課のものどもに近づき、無言で武器を取り出す。

「何で今だコラ」

「夜四課に帰ってからでよくない?何でここに来た?」

「いついかなるときも箱の中身はなんだろなって言われたらゲーム参加するのが四課のルールじゃん!?」

「ちっ……今度お前が暗殺対象とセックスしてるとこにその箱持って乱入してやる……」

「構わないけどその場合暗殺代わってくれるってことでOK!?」

ナギが凄まじい歯ぎしりとともに四課員の一人の首を締めたが、状況は好転しない。
ナツメもナギも、俄に青ざめた顔で硬直している。それもそのはず、箱の中身はなんだろなクイズから逃げることは許されないのである。何がどうしたんだかナギすらも知らない話なのだが、四課が定める諜報部軍規の一つにしっかり明記されているのだ――“課員二名以上の同意でもって「箱の中身はなんだろなクイズ」の実行を可とする。場所・時間は問わず、ただし「箱の中身はなんだろなクイズ」の箱の中身は危険物・劇物を除いた四課の所持品の中より選定されるものとし、「箱の中身はなんだろなクイズ」の回答者に選定された者は触接のみから中身を回答する。なお、課員二名以上の同意に基づき、「箱の中身はなんだろなクイズ」の中身を当てられなかった場合は罰ゲームの断行を許可する。”と。
最初に読んだ時はふざけてるんだろうなと思ったし、今もふざけてるんだろうなと思っている。だが、それが軍規に明記されている以上、戦時特例ならびに院長の直接命令でもない限り遂行せねばならない。課長ですら逆らうことができないのだ。ナツメとナギではさもありなん。

「だからって何で今来るのマジで!?何で今!?」

「お前らマジいい加減にしろよ殺すぞ……」

「殺す前にゲームは遂行してもらわないとー」

「じゃかじゃん☆」

ばちこんとウインクを跳ね飛ばしながら四課員が二人に迫る。ナギは苛立たしげに舌打ちし、ナツメは爪を噛んだ。相当に苛立ってはいるようだったが、四課の連中は意にも介さない。
そこへ、空気を読んだかあえて読まずしてか、クイーンがあえて声を掛けた。

「えーと……大丈夫ですか?」

「大丈夫クイーンあなたたちには関係ないからこっち見ちゃ嫌だめ見ちゃだめ」

「全員向こうを向いて平常に息をしろ。何が聞こえても振り返るな、俺たちのことは置いていけ、強く生きるんだ。生きて戻ったら誰か結婚してくれ」

「不吉にも程がありませんか!?」

ノンブレスで言い放つナツメと連打でフラグを立てるナギに問い返したクイーンだったが、二人の意思が堅いことを表情から知ると「……四課ですしね」と言って顔を背けた。それに従うように、他の0組もそっとうつむき、黒板のほうに顔を向けた。
この0組、手慣れている。つまりそれだけ巻き込まれて経験値を積んでいるというわけだ。誰が望んだ。

「第よんせんはっぴゃくきゅうじゅうにかい、箱の中身はなんだろなクイズ☆今回は二人を対象とするため箱の両側から片手ずつ入れていただいてけっこうです☆」

「なお四課ローカルルールを適用し今回も罰ゲームは“口に突っ込む”になりますので注意☆」

「もう……とりあえずその、死ね」

ナツメの暴言が単調になってきたら追い詰められてる証拠だってこの間ナギが言ってた。よし畳み掛けるぞ」

「せーのっ、箱の中身はァ!?」

「なんだろなァ!!」

「もう……ほんと死ね」

「五体投地で同意」

ナギとナツメは額を押さえるようにして、無言で箱に手を伸ばす。ナギの指先が震えていたが、ナツメが「最悪切り落としてケアルで治そう」と解決しているんだか詰んでるんだかわからない提案を告げたことで一周回って冷静になったらしく、乾いた笑みで思い切りよく腕を突っ込んだ。

「きゃーナギきゅんおっとこまえー」

「いや、俺が間違ってたんだ。そうだよなナツメ、いざとなったら切り落とす勢いでやらないと」

「ええ。首を切り落としたらもとに戻せないもの。口に突っ込まれる前になんとかしないと」

「あれ?おとこまえかこれ?」

四課がぎゃあぎゃあ言うのを無視して、ナツメとナギは箱の中の何かに触れる。
そしてびゃっと、同時に引き抜いた。

「ああああああさらさらしてる!なにこれ髪!?髪!?」

「うわああ生ぬるい息した息かかった何これ!?」

「めっ、メガネしてる、メガネしてるこれメガネしてます!!」

「あああああああああ舐められたうああああああ」

「当てに、ちょっと当てにいこう、息してて髪生えててメガネしてる奴誰!?」

「カヅサしかわからん!!」

「わたくしです」

「お前はそこにいるだろうが!?」

とっさに手を引き抜いた二人にクイーンがつい口を挟んだ瞬間、ついつい皆も噴き出した。お前ら必死すぎだろうと0組が振り返る。
普段飄々としているナギや仏頂面の多いナツメがあたふたと慌てふためいている様を見るのは案外おもしろい。四課が謎の企画を持ってくるのもわかろうというものだ。

「だぁからこっち見んなっつってんだろーがああああ!」

「中身がアダルトグッズだったことがあるので本当こっち見ないでください、R-18なので」

「リアル内蔵だったこともあるのでこっち見んな、R-18Gの可能性も高い」

「あなたたち十七歳以下しかいないでしょうが!」

「四課は本当、なんなの?魔窟なの?」

「悲しいことに大正解」

ナギはナツメと見つめ合い、それ以降はクイズの話に戻る。呼吸をする髪の生えたメガネの誰か、なんてクラスに一人はいる。
もう一度、おそるおそるといった様子で手を差し入れ、中に入っているものが生首である可能性を精査しはじめる。

「これ……これでもなんで息してんの、だっておかしいじゃん、下ただの机だよ人の首なわけがない……」

「生首を切り落としたてである可能性は」

「さすがにそれだけはあり得ねぇと俺は仲間を信じたい」

「わあカッコイー」

「でもほっぺぷにってした。どうしよう。死にたてかもしれない」

「信じろよそこまで言ったなら……」

「まぁ待て、冷静になろう。経験に照らして考えれば落とした頭を血抜きするのにどれくらいかかる?」

「ええと……そうね、ニ、三時間?」

「顎関節の死後硬直始まるよなそんぐらい経ったら」

「そういえばそうね」

「つまりこれは死体じゃない、人間に限りなくよく似た何かだ」

「人間に限りなくよく似た何かってつまり何?」

ぼそぼそと話し合いを続ける二人に四課は焦れたらしく、両の手をぶんぶん振って「はーい時間切れ!時間切れ!シンキングタイム時間切れ!」と大騒ぎした。ついナギがその頭をダンクする。

「ぴぎゅい!!?」

「バスケしようぜお前はボールな?」

「いやそれならこの箱の中のもん使った方が早いわ」

そう言いながらもナギはハッとした顔で、「でも間違いなく作りモンだ」と言った。一応本物の人間の頭を掴んだことで微妙な差異に気付いたらしい。

「それなら……一つしかないわね」

「ああ。一つしかねぇ、逆に言えば一つはある」

ナツメは唐突にかたわらの四課の頬をぶっ叩いた。

「何で!?何でビンタ!?」

「いつもは回答ボタンがあるのに無いから」

「なるほどね!?ありがとうございます!それでお答えは?」

「「全自動囮案山子」」

「二年くらい前に11組が作ってたやつね。ディティールに拘りすぎてとんでもない額かかった割に遠目から見ると動きのぎこちなさがやばくてさほど使えなかったやつ」

「っていうかこんな金かかるなら一兵卒の軍人適当に放り投げた方が安いわって軍令部に怒られたやつな」

「そんなん言われたことなくて11組が凍りついてたやつな。私ら言われ慣れてるけど」

ナギとナツメは言いながら箱の蓋を開けた。そして中からずるりと垂れる髪を掴んで首を引きずり上げると、白目を剥いた人間の首から白い配線が何本も覗く。

「待って首の断面図が妙にリアル」

「どんな凝り方……」

「ああーっまさか当てられるとは……」

「つうか二年前ナツメ朱雀にいなかったじゃん!!何で知ってんの!?」

「このクイズにいずれ使われそうだなと思ってチェックしてたんだよバーカ」

「くううううう次こそリベンジしてやるから覚悟しとけよ!マジでえぐいの持ってくるかんな!!」

そう言って四課はベニヤの台座を転がして猛ダッシュで去っていく。ナギの手の中にリアルな生首を残して。

「待てやコラちゃんと持って帰れこれもォォォ!!」

「11組に戻しといてー!!」

「また盗んできたのかてめーらはぁぁ!!誰が謝ると思ってんだぁぁぁ!!」

毎回さんざんに怒られているナギはやんややんや泣きわめいたが、もうここにいない四課に言っても無駄である。

「……ナツメ

「いや」

そして残っている四課に頼んでも無駄なので、ナギにはどうしようもないのである。







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