※生存設定
アヴドゥルさんが出掛けている間、私は家の近くに猫を見つけた。首輪がついていない。野良猫なのだろうか。
しかし、人懐こく初対面の私にも頭や身体を擦り付けている。私はしゃがみこみ、擦り寄ってくる猫の背中を撫でた。
「この辺に住んでいるの?」
猫はみゃあ、と小さく鳴いた。
「ふふ、可愛い」
喉のあたりを撫でると気持ちよさそうに猫が目を細めた。
「いいなあ。君になれたらずっとアヴドゥルさんの側にいれるのに」
もう少ししたら、また日本に帰らなくちゃいけない。私の言葉は周りの喧騒に掻き消される、はずだった。
「そういうことは本人のいるところで言ってくれると嬉しいのだが」
顔を上げると、アヴドゥルさんが立っている。聞かれていたんだ。顔が火照るのを感じた。
「ア、アヴドゥルさんお帰りなさい」
「ただいま」
「ご飯の用意しますね」
そう言って家に入ろうとした時だった。
「名前、」
アヴドゥルさんが私の腕を掴んでいる。
「な、何ですか?」
「本人には言ってくれないのか?」
「聞こえていたんじゃないですか…」
「はは、からかってすまない。……私も名前と会えなくなると思うと寂しい」
腕を引かれ、身体ごと反転する。するとアヴドゥルさんの服が目の前に広がった。私はアヴドゥルさんに抱き締められていた。
「あ、」
「名前、好きだ」
心地よい低音が耳朶に響く。私は応えるようにアヴドゥルさんの背中に手をまわした。