※微裏注意
私が吉良の家に住むようになり、一ヶ月が過ぎた。吉良は相変わらず私の手を気に入っている。
学校には普通に通って友達とも楽しく過ごしている、というよりも現実から逃避したいために欠かさず通っている。今の私の心の支えは学校と友人だった。
***
帰り道、吉良の家に向かうのは気が重かった。ゆっくりと歩いていると後ろから肩をたたかれた。振り返ると同じクラスの男子だ。
「よぉ、お疲れ」
「あ、お疲れ」
「お前さ、最近元気ないよな」
「そうかな」
「そうだよ。なんか無理してる感じがする」
そうかもしれない。でも、彼に悟られるわけにはいかない。
「ちょっと、疲れてるだけだよ」
「そうか〜?なら、いいけど。なんかあったら相談にのるよ。あー俺の電話番号わからないか」
彼はかばんから紙を取りだし電話番号を書き付ける。
「ほら、」
「……」
彼は躊躇っていると私の手をとり、握らされる。
「別に無理にっていうわけじゃあないし、気が向いたらでいいから。それじゃあな」
彼が去った後、私は渡された紙を眺めていた。
このやりとりを吉良に見られていたなんて私は知るよしもなかった。
***
吉良の家に向かうと、鍵が開いている。もう帰ってきているのか、嫌だな。
玄関に入ると吉良がいた。いつもより表情が暗い、気がする。
「こっちへ来るんだ」
家に上がるといきなり手を引かれる。どこへ行くんだろうと思っていると脱衣場だった。
「君の手は誰のものだ?」
いつもよりも声が低く、冷たい声だ。初めて家に来た時のことを思い出して怖くなった。
「…吉良さんのものです」
「じゃあ、証明してもらおうか」
「…え?」
「私の身体を洗ってくれ」
「……」
私は絶句した。吉良は気にせず服を脱ぎだす。気まずくなり吉良から視線を外すと脱ぎ終わったのか風呂場に入っていく。
「君もおいで」
私はそろりと足を踏み入れた。吉良の腰にはタオルが巻かれている。言われた通りに吉良の髪を洗い、背中を流している時だった。
「前も頼むよ」
その一言に衝撃を受けた。人の裸さえ見慣れていないのに、その上前もなんて……。戸惑っていると吉良が薄く笑った。
「君に拒否権はないはずだ」
「っ、」
私が断れば、友人が殺される。怖いやら屈辱やら様々な感情がない交ぜになって目の前の人の輪郭がぼやける。
「ふぅ、仕方ないな」
諦めてくれたのか。顔を上げようとすると目の前が暗くなる。
「吉良さん、」
「目隠しをしているだけだよ。これなら恥ずかしくないだろう。私が君の手を掴んで動かすから君は大人しくしているんだ」
吉良は私の手に石鹸をつけ泡立てるとそのまま身体に擦りつける。首、腕、身体とだんだん下に下がっていく。手から伝わってくる感触から気を逸らそうとしていると不意に硬い感触が伝わってきた。まさか、私の手が強張る。
「君の手は誰のものかな?」
私ははっとして手の力を抜いた。逆らうことは許されないのだ。結局私の手は吉良の身体のあちこちを洗う羽目になった。
ようやく全身を洗い終え、シャワーの音が止んだ。私の手もいつのまにか泡が綺麗に洗い流されている。
私の目隠しに手がかけられ、視界が明るくなる。やっと解放された。安心感からか堰を切ったように涙が溢れてくる。
「ありがとう、愛しているよ」
私の手に吉良の唇が触れる。
「先に上がっているよ」
そう言い残して吉良は風呂場を後にした。私は制服が濡れることも気にせず床に座り込んだ。