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名前が私の家で生活するようになり、1週間が経った。初めて私の家に来た時のことがあってか、随分と聞き分けがいい。私が仕事に出ている間は名前を自由にさせている。もちろん、私の正体を他人に漏らそうものなら友人の命は保証できないと釘をさして、だが。

名前が昼間にどう過ごしているのかは知らない、というよりも興味がない。私の平穏の邪魔にならず、手を愛でさせてくれればそれでいいと考えている。

***

仕事から帰ると、名前は夕食を用意してくれていた。これは自発的に名前が始めたものだった。名前の心理としては、私に気に入られようというところからだと思う。夕食を作らなかったからと言って名前に危害を加えるつもりはないが。

「片付けは私がするから君はシャワーを浴びてくるといい」
「はい」

名前がシャワーを浴びている間、私は気持ちを昂らせながら食器を洗っていた。というのも、風呂上がりの名前の手を愛でるのが私の習慣だからだ。
ガチャリと居間のドアが開けられる。

「こっちにおいで」
「はい」

名前は言われた通りにソファーに座る私の前に立ち、手を差し出す。この瞬間、私がこの手の主だと感じる。私は名前の手を自分の手の上に乗せ、口元まで持ってくる。
指先を口に含むと風呂上がりのせいか熱く石鹸の香りが一層強く感じられる。ゆっくりと舌を這わせ、指の一本一本の感触を楽しんだ。
しばらく手の堪能した後、手を洗面所まで連れていきぬるま湯で洗い、荒れないように手にハンドクリームを塗り込む。私が手のケアをするようになり大分手が綺麗になった。
今まではだんだん腐っていく手を愛でているだけだったが、この手は一層好みになっていく。ますます手を愛せそうだと思った。










▼夢主side▼

私がこの家に連れてこられて1週間が経った。本当はこんなところから逃げたしてしまいたいがそうもいかない。友人を殺されるのは絶対に阻止しなければ、そう思ってここに来たのだから。

***

吉良にシャワーを勧められる時が1日の中で憂鬱になる瞬間だ。シャワーを浴びた後、私の手は吉良に弄られるからだ。

私の風呂上がり後の吉良は嬉しそうだ。今日も言われた通りに手を差し出すと恍惚とした顔で手を口に含んだ。

それにしても吉良という男はよくわからない。私の手が好きなようで毎日仕事から帰ってきては手を舐めたり、触ったりしている。身体を弄ばれるよりは遥かにましだが、それにしたって気持ち悪い。しかし機嫌を損ねるのは不味いため言いなりになるしかない。
手を弄っているときに嫌な顔をしたら吉良はどんな行動に出るのか考えていたが、手を舐めているときも触っているときも吉良は私の顔を見てはいないということに気がついた。
私は所詮手の付属品でしかないということだ。

ようやく手が開放されて、一安心だ。いつになったらこんな日々が終わるのだろう。私は与えられた自室に閉じこもると涙を流した。

bkm