今まで私がこれほど恐怖した存在に出会ったことはなかった。私の目の前にいる女が全ての元凶だ。
この女は私の仕事の同僚にして、目の保養だ。仕事の休憩の合間に少し離れたデスクの上に置かれた手を見ることが習慣になっていた。
「吉良さんて手が好きですよね」
たまたま帰りが一緒になったとき、エレベーターの中で彼女、苗字さんが言った。
「どうしてそう思ったんだい?」
内心ドキリとしたが冷静を装って返答する。
「だって、いつも女性の手を見ているじゃありませんか?」
鋭い女だ。まさか、承太郎の仲間じゃないだろうな?この女を消さなければ、私の平穏が崩れる。エレベーターが開くまでに始末しなくては。
「キラークイーン!」
「?」
スタンドを発動させたが何も変化は見られない。どういうことだ。私の正面に立っている女は微笑んでいる。なんとなく私は彼女が恐ろしくなった。
「どうしたんですか?吉良さん、顔色が悪いですよ」
「ああ、何でもない。少し疲れただけだ」
「そうですか、お大事に」
ちょうどエレベーターが1階につき、私は彼女から逃げるように降りた。後ろから苗字さんのお疲れさまでした、という声が聞こえた気がしたがそれどころではなかった。
車を走らせ家に帰る。よりによって父は不在だった。
自室に籠っていると、玄関のチャイムが鳴らされた。うるさい、それどころじゃあないんだ。
少しして来客は帰ったようだ。再び家に静寂が訪れる。
すると自室のドアが開けられた。
「吉良さん」
「!何故君が…」
「後をつけました」
今私の部屋にいるのは、エレベーターで一緒になった苗字さんだ。
「エレベーターに乗ったとき、それが発動しなかった理由聞きたいですか?」
それ、というのは私のスタンドだ。
「実は私もあなたと似たような能力を持っているんです。能力は無効化です」
それでか、合点がいった。だから爆殺できなかったのか。しかし、理由がわかったところで問題の解決にはならない。
「君は、何が目的なんだ?!承太郎の仲間か?」
「承太郎?誰のことですか?…そんなことより、私と付き合ってくれませんか?私、ずっと吉良さんのこと気になっていたんです。しかも同じ能力者なんて…これはもう運命ですね!」
苗字さんは嬉しそうに私を見つめている。彼女には何を言っても通じなさそうだ。こういう女の扱いが一番困る。
「帰ってくれ……いや、帰らないでくれ!!」
「吉良さん…!」
この女には帰って欲しいが、このまま帰してしまってはまずい。承太郎と関わりがないという証拠もないのだ。どうにかしなくては。
しかし女は私が好意を寄せていると思ったらしい。目が輝いている。
「い、いや違うんだ!これは…」
「何も言わなくていいです!私には伝わりますから!」
「誤解だ!」
言葉が通じない。私は頭を抱えたくなった。