「だ、誰か……」
「大丈夫ですか?!」
仕事の帰り道、私は川で人が溺れているのを見つけた。波紋で川の上を歩き男の手をつかみ引き上げる。
肩を貸すと酒の匂いがした。酔っぱらって川に落ちたのだろう。
「あんたのお陰で助かったよ」
「いえ、歩けますか?家まで送ります」
「すまない、恩に着るよ」
私は酔っぱらった男に肩を貸し、家に向かった。この一部始終を見られていたことに私は気付かなかった。
***
男を送り届け、私は家に急いでいた。濡れた男にくっついていたため、衣服が濡れて肌寒い。やはり勧められたとおりに家で暖まっていくべきだったか。
帰路を急ぎ私は人通りの少ない近道を通った。普段は通らないが何せ早く帰りたかったのだ。歩いていると道の脇に大柄な男が立っているのが見えた。威圧感があるが特に気にも留めず男の隣を通り過ぎる。すると後ろから強い力で手を掴まれた。
「波紋使いだな?」
「何で…」
不意に腹部に衝撃がはしる。
「!がはっ……」
私の身体が後ろに飛び、背中に強い衝撃がはしり息ができなくなる。これから私は男に殺されるんだろうか。ここで私の意識は途切れた。
***
「ん……」
目を開けると、私は薄暗い洞穴の中にいた。
「ここは……!」
目を覚ますまでのことを思い出した。夜道で男にあって、投げられて、気を失って……。ということは男がここに運んだのだろうか。キョロキョロしていると誰かの足音が近付いてくる。蝋燭に照らされた顔を見ると、あの大柄な男だった。
「あなたは誰ですか?波紋使い?」
「違う。波紋使いは我らの敵だ」
「敵?それじゃあ、私は殺されるのですか?」
「…… 」
私は迷っていた。このまま生かしておけばいずれ我らの敵となる可能性もある。しかし相手は女だ。殺すことは躊躇われる。
考えた挙げ句私が出した結論は、女を監禁することだった。女を抱え家まで案内させる。寝室に運び、ベッドに降ろした。
「悪いがお前を外に出すわけにはいかない。そのままにしておけばお前はいずれ殺される」
「あなたの仲間に?」
「そうだ」
「あなたは私を殺さないんですか?」
「闘う意思のないものと闘うつもりはない」
「……じゃあ、私が闘うと言ったらどうしますか?」
「あまり、ふざけたことを言うな」
冷たい眼差しで見られ、背筋が寒くなった。
「私は……いつまでここにいなければいけないんですか?」
問いかけるが返事はない。男が近づいてきたかと思うと私の手首と足首に腕輪のようなものを取り付けた。
「これは…?」
「波紋が使えなくなる腕輪だ。自身で取り外すことは出来ない。今日の夜までここにいろ」
そう言って男は去っていった。さっそく部屋のドアを開けようとしたが開かない。ここにいろというより、ここにいるしかない。することもないので寝ようと思いベッドに潜り込んだ。興奮していて寝れないかと思ったがあっさり眠りについた。
***
目が覚めると頭が重く、身体が怠い。どうやら風邪をひいたようだ。昨日濡れた服のままで居たせいだろう。薬を飲もうにも部屋に薬はない。どうすることもできないまま毛布にくるまり、もう一眠りした。
外を歩ける時間帯になり、女の家に向かうとベッドが膨らんでいる。寝顔を見るとと苦しそうな顔をしていた。額に手をあてると熱い。
「ん、……あ、来ていたんですね」
「起き上がるな。熱がある」
「じゃあ、すみませんが隣の部屋から薬と水を持ってきてくれませんか?」
「わかった」
「ドアを開けて右の部屋です」
隣の部屋は台所だった。棚の上に救急箱が乗っている。これか。風邪薬と水を持ち女の部屋に戻る。
「ありがとうございます」
女は風邪薬を飲むとベッドに沈みこんだ。しばらくするとすうすう寝息が聞こえてきた。ぐっすり眠っている女の首に手をかけると、首の血管から鼓動が伝わってくる。手に力を籠めようとしたが、どうしても力が入らない。
カーズ様は波紋使いを殺せとおっしゃっていたが、やはり躊躇われる。
殺すことはできない、しかしカーズ様に背くこともできない。悩んだ結果、女を見張ることにした。