*J・ガイルと戦った後の話
「名前、ちょっといいか?」
ちょうど1人で歩いていた名前は俺に気付くとスタンドを発動させたが、エンペラーの方が速かった。
名前は両手を上にあげ、降参のポーズをとった。
「女に優しいんじゃあなかったの?それとも私は女じゃないってこと?」
「そうじゃない。あんさんと2人で話したくてな」
「……わあ、嬉しい」
棒読みのような台詞を返してきた名前の腕を引き、人通りの少ない路地裏に行く。
「私に何の用?」
強気な口調は保っているものの、声は少しうわずっている。こんな旅をしていても中身は年相応な少女だ。
「そんな目で見るなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
スタンドをしまうと、ホッとしたのか俺に対する態度がつれないものになる。
「帰る」
「ちょっと待てって!」
ここまで冷たい対応をされると傷付く。名前の腕を掴んで引き止めるとため息をついて俺を見つめた。
「用件があるなら早く言って」
「名前、日本に帰る気はないのか?」
「どうして?」
「どうしてって、本来ならこんなところにいるはずじゃあないだろ?」
「そんなことを言うために私を路地裏にまで連れてきたの?」
「ああ。俺は本気で言っているんだ」
冷めた表情がだんだんと真剣なものに変わっていく。俺の意図していることを汲み取ったらしい。
「日本には家族も友達もいるだろ?今ならまだ引き返せる。名前は日本に帰ったほうがいい」
「このままだと私が死ぬから?」
死ぬ、という言葉が少女の口から出てくることに寒気を覚えた。そんな場所に身を置くべきではない。嫌でもこの温かい腕が冷たくなるところを想像してしまう。
「……っ!あぁ、そうだ。わかってるなら」
「帰らない」
「なっ!」
「ここに来る前に色んな人に止められた。それこそ、ジョースターさんやアヴドゥルさんにも。それでも私はここにいるの」
「……」
強いまなざしを向ける名前にこれ以上言うことができなかった。
「悪かったな、ひき止めて」
「……忠告ありがとう。そろそろ戻るね、心配してると思うし」
「1つだけ言っておくが、無理だと思ったら退いた方がいい。生きていればチャンスはいくらでもある」
「……じゃあね」
名前の姿は人混みに紛れていった。