目を覚ますと、いつの間にか布団に寝かされていたらしい。
壁にかかっている時計を見るともう10時だ。
「ようやく起きたか」
「っ!」
声の方角を見ると、私を公園からここに連れてきた男だった。背中に嫌な汗が流れる。
「まるで野良猫のようだな」
そう言ったのはピンクの髪の男だった。この人も仲間なのか。
「そんなに怖いか?」
確かカーズという人だ。そんな顔しないでほしい。こっちが誘拐されてるのに悲しそうな表情をするのはずるい。
「……」
「随分警戒されたものだな」
「誘拐まがいのことをしておいてよく言う」
「あれは仕方なかったのだ。なあ、名前」
「え、」
「怖がらせるつもりはなかったのだ」
ゆっくり近づいてきて、私の方へ手を伸ばしてくる。昨日のことを思い出して目を瞑ると優しく頭を撫でられた。
「ディアボロ、朝ごはんを買いに行ってこい」
「お前が行けばいいだろう」
「そうか、朝食になってくれるか」
「……行ってくる」
ピンクの髪の男はそそくさと財布を持って家を出ていった。
沈黙がきまずい。
窓の向こうは鉛色で雨が窓をたたいていた。ピンクの人はあの服装で出ていったんだろうか。
雨足はだんだん強くなり、雷まで鳴りはじめた。
「っ!」
「雷が苦手なのか?」
稲光に驚き、思わず男の腕を掴んでしまった。
「す、すみません……」
「怒っているんじゃあない」
少し前まで被っていた毛布を頭からかぶり、身体を丸める。早く意識が遠退いてくれることを願いながら目を瞑った。
すると畳に横たわっていたはずが突然宙に浮き、畳より弾力のあるものの上に下ろされた。しかも何だか温かい、まさか。
毛布を捲ると男の腕の中だった。あぐらの上に乗り、背中に男の体温を感じる。
「被っていろ」
お腹の前に腕が周り、身体が暖かさに包まれる。
鼓動が早くなっているのを感じとったのか、「何もする気はないから安心しろ」と言われ再び頭を撫でられた。
安心なんて出来る訳がない、そう思っていたはずなのに、男の体温が心地よくていつの間にか眠たくなってしまった。きっと精神的に疲れているせいだ。
「ん……」
「起きたか」
「あれ、なんで……!」
目が覚めたら元の身体に戻っていた。
「思い出したか」
「はい……ごめんなさい、カーズさん」
ひどく拒絶したことを思い出し、申し訳なさでいっぱいになった。
「名前のせいではない」
そう言うと髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで頭を撫でられた。
「帰ったぞ。……戻っていたのか」
「おかげさまで」
「ほら、朝ごはんだ」
「ありがとうございます」
外はすっかり晴れていた。