ジョースター達との戦いのけががようやく癒え、久方ぶりに母国―アメリカの地が懐かしくなった。荷物をまとめ、病院を出ると強い日差しに目を細めた。病院前のタクシー乗り場に向かう途中、テレンスは何かにぶつかられた衝撃におもわずそちらを向いた。
衝撃の正体は小さな女だ。頭頂部しか見えないため、少女か女性か区別がつかない。すると身体の周りが何かに包まれ、瞬きした瞬間に目の前の景色が変わった。
「ここは……?」
アスファルトのない1本道の周りに緑が広がっていて、ところどころに花が咲いているのが見える。エジプトらしくない景色だ。
荷馬車の振動がテレンスの身体に伝わってくる。隣にはさきほどぶつかった女が同じく荷馬車に揺られている。女は驚いたようにテレンスを見て、「どちら様ですか?」と小さな声で問いかけた。
「あんたたちも物好きだね。あんな土地に行くなんて」
2人の会話は荷馬車を引くおじさんに遮られた。
「え……?」
「知らないのかい!?あそこは化け物が住んでいると言われていて人が近づかないんだ」
「化け物……?」
彼女が問い返すとおじさんが答えた。
「ああ。噂で聞いたんだが人の姿をした美しい化け物がいるらしくて、何人か行方不明になっている。だから気を付けた方がいい」
テレンスがこれはスタンドのせいなのではと考えていると、名前は「ここはエジプトではないのですか?」とテレンスに尋ねた。
「私もそう思っていたのですが、どうやら違うようですね。心当たりは?」
「……ないです」
テレンスはアトゥム神で名前の心を読む。嘘はついていないらしい。
「あの、後ろにいる人は……?」
「!?」
後ろというのはアトゥム神のことだ。テレンスは警戒して名前の腕をスタンドで掴んだ。
「あなたもスタンド使いですね。これはあなたのスタンド能力ですか?」
「スタンドってそこの人のことですか?何もわからないです……」
「本当ですか?」
「(YES!YES!YES!)」
彼女は嘘をついていない。もしかしたら発現して間もないのかもしれない。ということはこの世界は彼女のスタンドが作り出した世界では、とテレンスは考えた。
どうしたものか。彼女が気絶すればスタンドが解ける可能性はあるが、ヘタなことはできない。そもそも彼女の意思とは関係なく発動しているため解けるとは限らない。
テレンスのスタンドのように死ねば……と考えたところでゾッとした。もし彼女がこの世界の中で死ねば、テレンス自身も死ぬかもしれない。
「着いたよ。ここからは荷馬車じゃ行けないから送れるのはここまでだ」
森の中ではないか、と2人は困惑を隠せなかった。
「近くに村は?」
「ここから少し西に行ったところに小さな村がある」
「……」
とりあえず2人は荷馬車から下り、村へ向かうことにした。
「荷物忘れてるよ!」
荷馬車に載っていたのはテレンスと名前のものだった。
おそらくこの荷物が全財産なのだろう。2人は荷物を背負い、重い足取りで西を目指した。