ダニエルさんに迎えを頼まれて、入り口付近で待っていたときだ。隣に立っていた男が不意に口を開いた。
「君、ダニエルのメイドだよね」
顔を合わせると、金髪を後ろで束ねた男が笑みを浮かべて話しかけてくる。
「あなたは……?」
「僕はただのギャンブラーだよ」
「名前、帰るぞ」
立ち話をしていたところにダニエルさんが現れ、私の腕を引く。
「じゃあまたね」
話しかけてきたお兄さんはひらひらと私に手を振った。
「あいつとは関わらない方がいい。いい噂を聞かない」
「そうなんですか?」
「ああ、あいつと関わる人間は行方不明になるんだ。ディーラーやギャンブラーと様々だ」
「……恨み、とかですか?」
「原因はわからない。だが、行方不明になる直前に仲が良さそうに話しているのを見かけるんだ。とにかく近づかないほうがいい」
ダニエルさんの言う通りだ。しかしあの人の言った言葉が頭に残っている。
「ダニエルの彼女って綺麗だよね、あったことある?」
そんなことは初耳だった。前に彼女はいないと言っていたけれど、あの見た目で彼女がいないはずがない。一緒に暮らしているのにダニエルさんのことをほとんど知らないのだと思い知らされ、もやもやした。
***
次の日も、ダニエルを待っているメイドが入り口近くに立っていた。僕は口元を緩めずにはいられなかった。
「やあ、今日もお迎え?」
「ええ」
「つれないね、ダニエルに僕と関わるなって言われた?」
「……」
「彼もひどいな。僕は君が気になっているし、ダニエルには彼女がいるのにそんなこと言うなんて」
「そういうつもりで言っているわけではないですよ、ダニエルさんは」
「……名前が僕のことを好きになればいいんだ。こっちにおいで」
すると名前は僕のいいなりでまっすぐ僕の前に歩いてきた。もう名前は僕の人形だ。これが僕のスタンドの能力。スタンドを使えば僕の言うことに従わせることができる。ダニエルに恨みなんてないけど、ここにギャンブルをしに来ている連中は違う。僕はこの子で楽しめそうだし、見飽きたポーカーフェイスを崩してやりたい。だからあいつを殺す依頼を受けたんだ。
「僕を抱きしめて」
「名前……?」
あーあ、今日は来るのが早かったな。作戦を決行するのはまた今度だ。
スタンドを解くと名前はぽかんとした顔で僕を見ると、慌てて離れた。
「じゃあ、またね」
柔らかい髪を撫で、その場を立ち去る。ダニエルの反応が見られないのが残念だ。
***
なぜあの人の腕の中にいたのかがわからない。会ったところまでは覚えているんだけどな。
「名前」
聞き慣れた声に呼ばれ振り向くと、ダニエルさんがこちらを見ていた。心拍が聞こえるのではと思うほど脈が早くなり、顔が火照るのを感じる。
「ダニエルさん……」
上擦った声しか出ない。目が合ったが、すぐに目を逸らされ車に向かって歩き出す。
「はやく帰ろう」
帰りの車の中でダニエルさんはずっと黙ったままだった。