安寧の地(アヴドゥル)

※童話っぽいなにか
※夢主に特殊設定あり








アヴドゥルがスークを歩いていると、少女が道に倒れているのを見つけました。こんなところにほうっておくわけにはいかない、そう思ったアヴドゥルはその少女を家まで連れて帰りました。

よく見ると、少女の身体は所々傷ができていて痛々しいものでした。アヴドゥルは可哀想に思い、手当てをしました。

手当てを終えて、しばらくすると少女が目を覚ましました。

「ここはどこですか?」
「私の家だ」
「手当てをしていただき、ありがとうございます」
「君はどこから来たんだ?親が心配しているだろう」

アヴドゥルが尋ねると少女は黙ってしまいました。何か話せない理由があるのかもしれないとアヴドゥルは考えました。

「君の名前は?」
「名前です」

少女は答えました。アヴドゥルは名前にいくつか質問しました。しかしどこから来たのか、何者なのか尋ねると名前は何も答えません。

帰るあてもないため、名前と一緒に住むことになりました。初めは戸惑い、怯えの表情を見せていましたが一緒に住んでいるうちに、名前の表情がだんだんと明るくなりました。

アヴドゥルの包み込むような優しさに名前は惹かれ、いつか来るであろう別れに胸が苦しくなりました。

一方アヴドゥルも名前の気立ての良さや笑顔に惹かれ、いつの間にか好きになっていました。そしてある日、アヴドゥルは彼女に想いを告げました。すると名前の瞳から涙が美しい石となって頬を滑り落ちました。ハッとした名前は慌ててアヴドゥルを見ました。アヴドゥルは驚いた表情で名前を見つめ、口を開きました。

「名前は逃げていたのか」

アヴドゥルは本を読むことが好きです。ある本の中に、こう書かれていたことを思い出しました。

人間と同じ姿形の者の中に、涙を流すとその涙が宝石のように美しく結晶のようになり、高値で売れる、と。

「もうここにはいられません。今までお世話になりました」

悲しい顔で家を出ていこうとする名前をアヴドゥルは必死で引き止めました。

「このままずっとこの家にいてほしい」
「そうすると私は貴方に迷惑をかけてしまう」

賢いアヴドゥルは察しました。名前がどんな扱いを受けてきたか、もし邪な考えを持つ者に 居場所が知られたら、と。

「それでも側にいてほしい、もし追われることになったら一緒に逃げよう」

それは名前が家族以外にかけられた言葉の中で初めての優しい言葉でした。
名前は堪えることを止め、アヴドゥルの胸にすがり、気の済むまで泣きました。そうして泣いているうちにいつしか眠ってしまいました。

名前が目を覚ますと、手が暖かさに包まれていることに気付きました。アヴドゥルは寝ている時もずっと手を握っていたのです。初めての安心感に、ずっと持っていた重い荷物をようやく下ろせると思いました。

bkm