※微裏というほどでもないですが、一応注意
「なあ名前、これから飲みに行かねぇか?」
「いい、ていうかもう酔ってるじゃない」
「飲み足りねぇんだよ、お前も来いよ」
ダンが名前の腰を引き寄せると腕を払う。
「チッ、何だよ」
「やめて」
ダンは面白くなさそうに部屋のドアを強く閉めて出ていった。
***
「なぁ、ダン。頼みがあるんだが……」
ラバーソールが頼みごととは珍しい。金をどれくらい吹っ掛けてやろうかとダンは考えていた。
「いくらくれるんだ?」
「本人から貰ってくれ」
「は?本人?」
「名前を頼んだ、それじゃあな」
「名前?あ、オイ!」
ラバーソールは素早く部屋を出ていった。何も理解していないダンは、とにかく名前を見つけることにした。
部屋を出ようとすると、腹部に何かがぶつかった。目線を下げると子供と目が合う。体型に似合わない大きなワンピースを肩に引っ掻けている。
怯えた顔にどこか見覚えがあった。名前を幼くしたような顔だ。そういえば人を若返らせる能力を持つスタンド使いがいると聞いた覚えがある。名前もきっとそいつにスタンドを使われたにちがいない。強気な態度ばかりとっているからこうなるんだ。
「名前は?」
「……名前」
小さな手をぎゅっと握りしめたまま、子供姿の名前が答えた。昨日興ざめなマネをされたことを思いだし、少し痛い目を見せてやろうかと考えた。しかし、それでは面白くない。この姿の名前を撮って後でからかってやろう。あの無表情な顔が変わるか保障はないが試してみる価値は充分にある。
「なぁ、」
「っ、来ないで!」
「へぇ〜?」
ダンが距離を詰めると名前は怯えて後ずさった。みるみるうちに目に涙が浮かび、頬は赤くなっている。ダンはその姿をカメラに押さえる。
面白い。これだけ名前の弱いところを見せられると嗜虐心が刺激される。
「来ないで!」
「俺はお前の世話を頼まれただけだ。だからこっちに……」
「いや!」
小さく細い腕に振り払われる。あぁ、やはり名前だ。
カッとなったダンは逃げようとする名前の肩を掴んだ。
「っ!」
咄嗟に名前はダンの腕を噛んだ。ずきずきと痛み、腕を見ると血が滲んでいる。
「あ……」
しまった、という顔で名前はダンを見た。ダンの我慢も限界に近かった。
「っこいつ、」
名前が腕で自分の頭を抱え込んだと同時に身体が元の姿に戻った。
「あ、」
驚き自分の身体を確認した後、名前の視線はダンの腕に注がれた。
「ごめん、そんなつもりじゃ」
「……」
まだ苛立ちを抑えきれないダンは、床に座り込んでいる名前の肩を掴んで押し倒す。背中を打ったようで痛みに顔を歪めたがお互い様だ。
「どいて」
「言葉遣いがなってねぇな」
「こんなことする人に何でお願いしなきゃならないのさ……」
こんな状況でも強気な態度に腹が立つ。名前の手首をひとまとめにして押さえ込む。
「っ……」
「そんなことを言っていいのか?」
ギリギリと手首を締めると痛みに顔を歪めた。俺が名前にこんな表情をさせていると思うと優越感のようなものを覚え、興奮してくる。
「お前、スタンド出さねーの?」
何気なく聞いた質問に名前は黙り込んだ。俺のスタンドよりよっぽど強いのに出さない理由が理解できない。
「……」
「また無視かよ。もしかして出せねーの?」
冗談半分に尋ねたがだんまりだ。
「このまま抵抗しないなら……続けるぞ?」
すると名前は手に力を込める。名前のスタンドが姿を現し、一瞬にして消えるのをダンは見逃さなかった。スタンドの制御には精神の強さが要求される。今の名前はスタンドを制御できていない、ということは……。
「怖いのか?」
「だ、れが」
名前の声は掠れていて小さかった。ダンは笑みを浮かべて名前の頬を撫でる。
「っ!」
「可愛いところもあるんだな」
「うる、さい」
今度はそっと脇腹を撫で上げると名前の身体は跳ね、身体を捩って逃れようとする。
「逃げんな」
「放して」
「放さない」
覆い被さり、首もとに顔を埋める。軽く首筋を噛むと身体が強ばる。ますます気分をよくしたダンは口元を緩めた。
「も、やだ……」
涙声に聞こえた名前の声にダンが顔を上げると、瞳が潤んでいた。その顔にますます気持ちが昂る。もっと泣き顔が見たい。
「なあ、さっき名前に噛まれた腕が痛むんだ」
「……ごめん、」
「名前が舐めて治してくれよ」
「え……?」
「ほら」
もっと羞恥心を煽れば泣き顔が見れるだろうか。
名前の身体を起こし、膝の上に乗せて逃げられないように腰を引き寄せる。顔を赤らめて俯き、なかなか行動を起こさない名前に痺れをきらしたダンは彼女の顎を掬い、無理矢理目を合わせて「俺はさっきの続きでも構わないんだがな」と呟くと身体が強張った。
羞恥で熱くなった手がダンの腕を掴み、口元に持っていく。
「っ、」
ピリッとした痛みに、ダンは少し顔をしかめた。名前の舌は拙く、どこか子犬を思わせた。そっと空いている方の手で頭を撫でてやると綺麗な髪がさらさらと流れる。
「ん、っ、はぁ」
「なあ、どんな気持ちだ?」
「……るさい」
「あ?」
「うるさい、ばか!私にこんなことさせて何が楽しいの?そんなに私のこと嫌いなら関わらなきゃいいじゃん!」
ついに名前の目から涙が零れ落ちた。
「お、おい!別に嫌いなんて言ってな」
「じゃあなんでこんなことさせるの……?」
「う、」
ぽろぽろと涙を流す姿が可愛いと思ってしまう。
「名前を……気に入ってるから」
「うそだ」
「嘘じゃねぇよ」
「うそ、」
強く抱き締めると名前は目を見開き、再びぽろりと一滴の涙を溢した。ダンは名前の手をとり、甲に優しく口付けた。
「ほんとうに?」
「これだけしてんのに疑うか?フツー……」
「なんか驚いて。……ね、これから飲みに行かない?」
「昨日あんな態度とっておきながらか?」
「ごめん……」
「……行く」
2人とも立ち上がると、名前はそっとダンの手の中に自分の手を滑りこませた。