洗濯物を干しているとどこからか猫の鳴き声が聞こえる。辺りを見回すと猫が木の枝の先で縮こまっている。どうやら下りられなくなってしまったようだ。
あの高さなら登れるかも。足場になりそうなところを確認しながら猫がいる高さまでたどり着いた。さすがに枝の先までは届かないから目一杯腕を伸ばす。
「おいで」
猫は後ろ足で枝を大きく蹴り、私の腕を伝って肩に乗る。
「あ、」
私の足元には踏みしめるものがなかった。少しの浮遊感の後、足にびりびりと衝撃がはしり、右足の鋭い痛みに蹲る。
「大丈夫か?!」
ちょうど帰宅したダニエルさんが駆け寄って私の足元に膝をつく。
「ちょっと捻っただけだと思いますから」
立ち上がろうとすると足首が痛む。思わず顔を歪めるとダニエルさんは咄嗟に私の身体を支えてくれた。
「すみません、ありがとうございます」
「歩くのも辛そうだな」
そう言うとダニエルさんは私を抱きかかえた。
「ここまでしなくても……」
「あんなに痛そうな顔をしていたのに歩かせるわけにはいかないだろう」
そのまま居間に運ばれ、ソファーに下ろされる。
「あの、もう大丈夫ですから」
「だめだ。靴を脱がすぞ」
ダニエルさんが私の前に膝をつき、アキレス腱のあたりを掴んで持ち上げ靴紐をほどく。もう片方もそうして私の両足もソファーに乗せた。
「今氷を持ってくるよ」
ダニエルさんの背中を眺めているとお腹が少し重くなる。猫だ。私のお腹で眠るつもりらしく丸くなっている。綺麗な毛並みを撫でると気持ち良さそうな顔をしてうとうとし始めた。
「すっかり仲良しだな」
戻ってきたダニエルさんが氷の入った袋で私の足首を覆い、微睡んでいる猫を撫でる。
「猫を助けてくれてありがとう」
「こちらこそ、手当てをしていただいてありがとうございます」
***
「せめて今日だけは大人しくしていなさい、命令だ」
「……職権乱用」
ぼそりと呟くとぽん、と宥めるように頭に手をのせる。見上げると整った顔が近くにあった。まじまじと見るとこんなにかっこよかったのかと気付かされる。
「どうかしたのかね?」
「あ、いえ……」
ついじっと見てしまい失礼だったと思い、目を伏せる。
「私はご飯の用意をしてくるから、ここで休んでいるといい」
そう言うと、猫を一撫でしてリビングを後にした。