仕事を終えて家に帰ると承太郎たちが遊びに来ていた。とてもいい匂いがする。
「名前、お帰り」
「お、ここ座れよ」
「仕事お疲れさま」
「……お帰り」
「ただいま」
バッグを下ろしてソファーに腰を下ろす。
「これ、フランス料理?」
「あぁ、俺が作ったんだぜ」
「俺たち、だろ?」
「やれやれだぜ」
色合いも綺麗ですごく美味しそうだ。
***
「そういえばこの前言ったスタンド使いが……」
食後のデザートを食べ終わった頃、ポルナレフがぽつりと口にした。
私の知らない話だ。アヴドゥルさんも、花京院も承太郎も知っているようで話に耳を傾けている。なんだかひとり置き去りにされている気持ちだ。私の表情に気付いた花京院が説明してくれる。その気遣いに嬉しく思いながらもどこかもやもやした気持ちは収まらなかった。
次の日、アヴドゥルさんと出掛けているとアヴドゥルさんの友人と会った。アラビア語で何やら楽しそうに会話をしている。ふと2人の姿を見て、友達のことを思った。私の友達は今何をしているんだろう。今頃夏休みを満喫しているに違いない。きっと私もこの世界に来ていなかったらその輪の中にいたんだろう。
アヴドゥルさんもポルナレフも花京院も承太郎もジョースターさんもいる。でもこちらの私は死んでしまっているし、友達も両親も誰もいない。アヴドゥルさんたちと居る間だけが私が存在している時間だ。私がいなくてもみんなは他の輪の中に収まっている。
―――寂しい。
いいようのしれない孤独感が胸に燻る。やっぱり私はこの世界の人間ではないんだと実感させられた。
「先に帰ってますね」
「名前?」
ぶっきらぼうだとは思うけどこれが精一杯だった。少し離れると涙が止まらなくなって視界が滲む。
「っ、……」
寂しい。
3年間という月日はこんなにも長いものだったらしい。私もみんなも違う世界でそれぞれの道を歩いてきた。それに対して50日、なんて日数は少なすぎる。
何で私はここにいるんだろう。この世界に来てこんなに悲しく胸を締め付けられる気持ちになったのは初めてだった。
***
気が付いたら結構な時間が経っていた。孤独感はこの世界にいるうちは直面せざるをえない。多分この先もあると思う。でも世界にもっと馴染めればきっとうまくやっていける、はずだ。
泣きすぎたせいか少し眠くなってきた。あれほど、思い詰めていたはずなのになんて自分は暢気なのかと思いながら、微睡む。うつ伏せになって枕に顔を埋めると、ふわりとお香の香りが鼻を掠め、気持ちが少し和らいだ。
―――ガチャリ、とどこか遠くで音が聞こえた。誰かの足音が近付いてきて、ベッドが少し沈みこむ。
子供の頃、親がしてくれたように、誰かが私の頭を優しく撫でている。こんな夢を見るなんて、私は愛情に飢えていたのだろうか。それにしても暖かくて優しい手だ。
「ん……」
泣いて腫れぼったくなったであろう瞼を開けると、ベッドに腰を下ろしていたのはアヴドゥルさんだった。
夢じゃあなかったんだ。
身体を起こすと、アヴドゥルさんは「すまない」と言って強く私の身体を抱きしめた。
「もう大丈夫ですから」
「……我慢しなくていいんだ」
アヴドゥルさんのその一言が心に沁み、涙腺が緩む。
「っ、ありがと、う、ございます」
ぐっと私を抱き寄せた腕は力強く、ひどく安心できた。