05

「お嬢さん、俺たちと遊ぼうよ」

スーパーで買い物を済ませ、自動ドアを通りすぎた途端に20代くらいの青年2人に話しかけられる。

口調は優しげでそっと肩に手を置いたけど、表情は笑顔、というよりニヤニヤしている。それにちょっと馴れ馴れしい。ダニエルさんの魅力には到底及ばないな、と心の中で思った。

「黙ってないで何か言ってよ」
「急いでますから」
「じゃあ俺たちが車で送ってあげるよ。そこに止めてあるんだ。ほら、乗って」

スムーズな流れでエスコートしはじめた2人。何でよりによって私なのか。避けて通ろうとすると道を塞ぎ肩を掴まれグイグイ押される。

「!」

腰に手をまわされる。嫌だな、と思っていると車とは反対方向に引かれる。おかしい、と思い顔を見上げるとダニエルさんだった。

「おいで」

私を庇うように身体を密着させ、腰を抱いたまま歩き進める。後ろで舌打ちが聞こえたが、「大丈夫だ」というきっぱり言い放った声と腰にまわった手に、安心して身を預けることができた。

そのままダニエルさんが近くに止めておいた車に乗り込む。シートベルトをするときに自分の手が少し震えていた。

「着いたよ」

ぼんやりしていたせいで車が家の前に着いたことに気付かなかった。ダニエルさんの後に続いて家に入り部屋に行こうとすると呼び止められる。

「飲み物を淹れようと思っているんだが名前は何か飲むか?」
「でしたら私が」
「ついでだから気にしなくていい」
「じゃあ、ココアを……」
「わかった」

少しして目の前にココアの入ったグラスが置かれる。丁寧にストローまでついてる。

「ありがとうございます」

向かいにダニエルさんが腰掛け、アイスココアに口を付ける。グラスを持ち上げると震えで溢してしまいそうなのでテーブルに置いたまま飲んだ。

「……さっきは助かりました。ありがとうございます」
「怪我はしてないか?」
「大丈夫です」
「そうか、よかった。夜に出掛けるなら私に声をかけてくれ。また絡まれたら嫌だろう」
「はい……そういえばダニエルさんはスーパーに用事があったんですか?」
「いや、たまたま通りかかったんだ」
「そう、だったんですか」

ダニエルさんが来てくれなかったら、と思うと怖くなる。テーブルの下で手を握り締めていると優しく頭を撫でられた。さっきから私にすごく気を遣ってくれている。嬉しいやら恥ずかしいやらで私は黙ってココアを飲むことに集中した。
いつの間にか手の震えが治まっていた。

bkm