06

「今日は夕方に友人が来るから夕食を頼む」
「わかりました」

家に帰ると私も友人たちもテーブルに並べられている食事に目を見張った。名前の料理の腕は悪くないと思っていたが、まさかこれほどとは。羨ましいメイドだと友人が口々に褒め、名前は微笑んで頭を下げた。

「随分いつもと態度が違っていたな」
「お客様ですから」
「私には微笑んでくれないのか?」
「初対面で私の性格をご存知のはずです」
「つまり私には素で接しているということか、嬉しいな」
「っ、前向きですね」
「そうでなければギャンブルはできないさ。本当に夕食美味しかったよ」
「ありがとうございます」

片付けがありますので、と言ってさっさと台所へ向かったが少し嬉しそうな表情をしていたのを私は見逃さなかった。
微笑めばもっと可愛いだろうに、あの性格では素直に言ったところでますます頑なに笑おうとしなくなるだろう。

***

ダニエルさんに褒められたのが誰に言われた言葉よりも嬉しかった。さっさと片付けてしまおう。

居間に戻るとダニエルさんはワインを飲んでいた。

「お疲れさま。名前も飲まないか?」
「少しだけいただきます」

ダニエルさんがグラスにワインを注いでくれた。

「ありがとうございます」

そういえばお酒を飲むのは久しぶりだ。

「名前はあまり飲まなそうだな」
「そうですね。前の家では従業員を労うために年に1回飲むくらいでした」
「そうか、もう頬が赤いな」

頬に手を触れると少し熱さが感じられた。今日は少し疲れたな。ソファーの背凭れに寄りかかると柔らかい感触に上半身が埋もれる。お酒のせいか眠くなってきた。

***

「眠いのか?」

うとうとし始めた名前の身体はぐらりと傾き私の肩に凭れる。

「名前……?」

ぐっすり眠った名前の顔を覗きこむ。いつもより表情が柔らかくあどけない寝顔だ。起こさないように抱きかかえて部屋まで運び、自分もそろそろ寝ようかと踵を返すが、名前にワイシャツを掴まれていた。少し口元を緩め、ワイシャツのボタンに手をかけた。

次の日、居間でコーヒーを飲んでいると名前が大きな足音を立てて私の前に来た。

「おはよう、名前」
「おはようございます。これはどういうことですか?」

昨日私が着ていたワイシャツだ。

「どういうことだと思う?」
「質問を質問で返さないでください!……まさか」
「安心してくれ、私は何もしていない。名前が私を離してくれなかったんだ」
「……」
「というのは冗談で眠った名前がワイシャツを掴んで離さなかったから脱いだだけだ」
「っ、今日はお菓子ありませんからね!」

bkm