01

「では聞かせてもらおうか」
「私の魂をかける」
「グッド!」

結果は私の勝利だった。目の前の男は椅子から転げ落ちる。

「ま、待ってくれ!そうだ、この女を代わりに差し出す!こいつは家事ができるし顔だって悪くない。売って金にするなり囲うなり好きにすればいい」
「私はあなたと賭けをしたんだ、Mr.バーンズ。そこの女性ではない」

男はコインになってテーブルの上にコロンと転がった。男のメイドらしき女性は呆然と立ち尽くしている。

「君は主人を助けるために私と勝負するつもりはないか?」

ハッと気付いた女性は冷たい表情で私を見据えた。

「私に命を賭けろと?私はその男ほどギャンブルに狂っているわけでもないし、妻でもない。それにそんな訳のわからないものを見せられて勝負を挑むわけないでしょ」
「確かに君の言う通りだ。じゃあ今君の魂を貰うと言ったら?」
「……そんなこと、できるの?」

さっきの強気な態度とは一変して不安そうな声で尋ねられる。

「ちょっと、笑ってないで答えてよ!」
「失礼、さっきのは冗談だ」
「っ最低!」
「帰る当てはあるのか?」
「あなたには関係ないでしょ!」
「その男がいなくなったら、君は解雇じゃあないのか?」

ぐ、と言葉を詰まらせた。

「どうしてそう思うの?」
「君はバーンズに気に入られていたようだからね。勝負に負けるまでは君に対する好意を感じたんだ。だから妻や他の使用人に厄介者扱いされていたんじゃあないかと思ってね」
「……」
「ちょうど私の家にメイドが欲しいと思っていたところなんだ。君さえよければ私の家に来ないか?」
「……行きます」
「じゃあ決まりだ。明日迎えに来るよ」
「今でいいです。持っていくものなんてありませんから」
「そうか、着いておいで。名前、だったかな?」
「はい」
「私はダニエル・J・ダービーだ、よろしく」

***

流れでダニエルとかいう男の家で仕事をすることになってしまった。だが、バーンズのところよりはずっと良さそうだ。

「部屋はいくつか空いているから好きな部屋を選んでくれ」
「わかりました」

案内された部屋のひとつに目が留まった。空き室の中では少し小さめだがひとり部屋には問題ない。何より窓から見える景色が綺麗だ。

「ここにします」
「そうか。手伝おう」

ダニエルはワイシャツの袖の釦を外し、腕を捲る。

「なんで、」
「2人で片付けた方が早く終わるだろう」
「……」

ダニエルは窓を開け、掃除機をかける。大分片付いたところにトラックのエンジン音が聞こえてきた。家具を積んであるトラックが家の前で止まった。
ベッドやクローゼットが運び込まれ、ようやくそれらしくなった。

「これでひととおり揃ったな。また必要なものがあったら言ってくれ」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。少し休んでいるといい。夕食ができたら呼ぶよ」
「私が、」
「疲れているだろう?今日はゆっくりしなさい」

優しい口調でそう言うと部屋を出ていった。

bkm