出会い(ダニエル)

いつものようにカジノへ足を踏み入れると、休日だということも相まって騒がしい。中でも奥のテーブルには人だかりができていて、どこのテーブルよりも盛り上がっていた。

その中に紛れるとこの場所に不釣り合いな少女がゲームを繰り広げている男の横に座っていた。その少女に表情はなく、一目で"商品"なのだとわかった。そもそもこんな場所に子供を連れてくる親はいない。

その男は連勝しているようで、テーブルの上に山のようなチップが積み上げられている。ちょうどゲームが終わり、対戦相手が肩を落として席を立った。

すっかり調子に乗った男は声高に対戦相手を募る。しかしそのテーブルを囲んでいる人々は自分の周りを見渡すだけで、男の向かいに腰掛ける者はいなかった。どれほど強いのか挑戦したくなり、私は人の間を縫って席についた。

***

男は顔を赤くし、怒りに任せてチップをテーブルに叩きつけ去っていった。見物人もテーブルを離れ、酒を飲むもの、ゲームに興じる者と様々だ。
テーブルには私と少女だけが取り残された。

「帰るところは?」
「ありません」
「そうか、じゃあ私の家に来るといい」

少女は無言で私の後についてきた。
家に帰ると、弟はゲームの最中だった。

「テレンス、今日からこの子と暮らすことになった。えーと、まだ名前を聞いていなかったな。私はダニエル・J・ダービーだ」
「苗字名前です」
「……そういう趣味があったんですか」
「そうじゃない。そろそろ夕飯にするぞ」
「わかりました」

既にテレビ画面に夢中になっている弟に小さくため息をついた。

「名前はソファーで休んでいるといい、疲れただろう」
「いえ」
「では皿をテーブルに並べてくれないか。食器棚はそっちだ」
「はい」

名前は相変わらず無表情だった。弟くらい思ったことを口に出す方が気楽なのだが。黙々と食器を並べている名前を見る。普通に生活していたら同級生と買い物したりカフェによったり、ボーイフレンドをつくったりと楽しい年頃だろう。

「どうかなさいましたか?」

私の視線に気付き、名前が尋ねる。

「ああ、何でもない」

食事を終え、食器を洗っていると風呂上がりの名前が服をだぼつかせて歩いてきた。ズボンも一緒に置いておいたはずなのだがワイシャツしか着ていない。

「……ズボンはどうしたんだ?」
「ウエストのサイズが合いませんでした」
「そうか」

明日は服やベッドを買いに行かなければ。

「済まないが今日は私のベッドで寝てくれ」
「ダニエル様はどうなさるんですか?」
「ソファーに寝るよ」
「私はソファーで十分です」

そう言ってソファーに横になり、あっという間に寝入ってしまった。やはり疲れていたのだろう。穏やかに寝息をたてる名前をベッドに移し、部屋の照明を落としてソファーに横になった。

bkm