※微裏
晴れてダニエルさんと付き合うことになったが、私の心は最近もやもやしている。ダニエルさんに子供扱いされているような気分になるからだ。
私の頭を優しく撫で、額にキスをして抱きしめる。年が近ければそれほど気にならなかったかもしれないが、ダニエルさんとの年の差のせいでまるで子供扱いされてる気持ちになる。
「それで私に相談ですか……」
「テレンスがダニエルさんのこと一番知ってると思って……」
面倒くさそうに溜め息をついた。
「ごめん」
「……仕方ないですね」
そう言うと化粧道具を取り出した。
「それ、どうするの?」
「あなたは黙って少し上を向いていてください」
「……」
頭を上に向けられ、テレンスの持つ化粧筆が首もとを擽る。
「テレンス、くすぐったい」
「少し我慢してください……出来ましたよ」
鏡を渡されて首もとを見ると鬱血したような痕ができていた。これをダニエルさんに見せろ、ということか。
***
洗面所の鏡で首もとを見る。やっぱりダニエルさんを騙すのは気が引ける。洗い流してしまおうかと考えていると鏡にダニエルさんが映った。
「ここにいたのか」
「っ!ダニエルさん!」
慌てて振り返り、思わず首元を押さえる。
「どうした?」
そっと手首を掴まれ、下ろされる。
「これは……」
やっぱり止めればよかった。ダニエルさんの声を聞いて後悔した。
「ごめんなさい」
ダニエルさんは何も言わずに私の手を引いた。いつもだったら私の歩幅に合わせてくれているのに、引っ張られるように後ろを歩く。
***
名前を部屋に連れていき、ベッドに腰掛けさせた。先程から見え隠れする鬱血痕に苛立ちを感じる。
「名前、」
声を掛けるとびくりと身体が震えた。押し倒すと身体を強張らせるだけで何も言わない。ならば、と思い着ているブラウスの釦を外していく。鬱血痕は首元1ヶ所だけのようだ。スカートの下はわからないが。
「私には言えないか?」
「違うんです……」
苛立ちを隠せないまま、スカートの裾に触れると名前は私の手に自分の手を重ねて押さえる。
「っ、ダニエルさん」
本当は浮気ではないとしたら、名前が望まない行為を強要されていたとしたら、と考えると頭を抱えたくなった。身体を起こしてブラウスの釦を留めようとすると名前が抱きついた。
「名前……?」
「ごめ、なさい……ごめんなさい……」
泣き出した名前が落ち着くまで背中を撫でさする。
「名前、何があったか話してくれないか」
名前は首に有った鬱血痕を手で拭った。すると痕は先程よりも薄くなった。
「……!これは」
「……化粧です」
「テレンスか?」
名前は言いづらそうに頷いた。
「ダニエルさんは私を子供として見てるんじゃないかって……思って、それで……」
だんだん名前の声が小さくなっていく。大切にしていたつもりだった。子供扱いのつもりはなかったのだが、年下の恋人はそう思っていたらしい。それにしても鬱血痕は私の嫉妬心を刺激するにはかなり効果的だった。
「ごめんなさい……」
「お仕置きだな」
「っ、」
名前は耐えるように膝に置いた手でスカートを握りしめて固く目を瞑った。私は化粧がついた方とは反対側に唇を寄せ、痕をつける。唇を離すと名前はうっすら目を開け、頬を赤く染めて私を見つめた。
「……あの、」
「これでお仕置きは終わりだ。……おいで」
名前の膝の上にのせ、抱き寄せるとぎゅう、と力強く抱きしめた。