初詣・中編(カーズ・吉良)

「吉良さん、破魔矢を買ってきますね」
「ああ、私も行く」

名前に歩み寄ろうとすると私の肩をカーズが後ろから掴む。

「名前、トイレに行ってくる」
「カーズ、私は別に」

そう言いかけるとカーズが強く肩を握りしめた。肩の骨を折る気か。

「わかりました」
「じゃあ買い終わったらあの鳥居のところで待っててくれ」
「はい」

引きずられるようにしてその場を後にした。

「全く、なんなんだ」
「吉良、名前が絵馬に何を書いたのか気にならぬか?」

さきほど3人で絵馬を買い、それぞれ願いを書いたが、名前は恥ずかしそうにして決して見せてくれず、背中を押されて遠ざけられた。正直なところ、彼女が何を書いたのか気になる。仕事か、生活か、それとも恋愛のことか。

「今なら名前に気付かれないぞ」
「私も行く」

私とカーズは絵馬のところに向かった。

「どこに掛けたか覚えているのか?」
「これだ」

カーズが直ぐに見つけ出し、絵馬を指差す。名前の絵馬には"今年も荒木荘のみんなと幸せに暮らせますように"と書かれていた。読む前の緊張感が温かい気持ちに変わる。カーズも少し嬉しそうな表情をしているように見えた。

「隠すほどのことではないな」
「名前がこんなことを書くのは意外だ」

あんなに恥ずかしそうにしていたからもっと違う願いかと思ったが、照れくさかった部分もあるのだろう。 名前の願いを見て満足した私たちは待っている名前のところに向かった。

「待たせてすまないね」
「いえ」
「早く帰るぞ」

私たちは少し冷たくなった名前の手を握り帰路についた。

bkm