「名前、立てるか?」
銃弾が足を掠め、傷口が熱い。任務が終わり、地面にしゃがみこんでいるとブチャラティは私の身体を軽々持ち上げた。
「っ、ブチャラティ、下ろして」
「痛そうな顔をしているのに下ろすわけにはいかない」
そのまま私を横抱きにして、アジトへ連れていってくれた。部屋に付くとソファーにそっと下ろし、手際よく手当てをする。
「終わったぞ」
「ありがとう、ブチャラティ……」
そう言うなり私のお腹がぐー、と音をたてる。好きな人の前でお腹がなるなんて恥ずかしい。
「今ご飯を持ってくるから少し待っていてくれ」
「ごめん」
「気にするな」
ブチャラティは微笑むと私の頭を軽く撫でて部屋を後にした。やっぱり優しくて頼りがいのある人だなあと思う。
「顔がにやけてるぞ」
声にハッとするとミスタがドアの隙間から顔を覗かせていた。
「見てたの?!」
「ばっちりな、入るぞ」
ミスタは私のソファーの向かいに腰かけた。
「ねぇ、ブチャラティってかっこいいね」
「その話何回目だよ」
「えーだって本当のことじゃん」
少し呆れながらも話を聞いてくれる。
「足、大丈夫か?」
「うん!ブチャラティに手当してもらったからね。もう治ったも同然だよ」
「ちなみに俺が手当てすると何日で治るんだ?」
「うーん、1ヶ月かな?」
「長えよ!」
「冗談だよ」
笑ってるとブチャラティがご飯を運んできた。
「名前、持ってきたぞ」
「ありがとう」
「それじゃあ俺は戻るよ」
なんだかさっきと態度が違う。戻ろうとするブチャラティをミスタが引き止めた。
「ブチャラティ、俺は用事があるから名前の側にいてやれよ。さっき寂しいって騒いでたからな」
ミスタはブチャラティに見えないようににやりと笑って私を見た。
「わかった」
ブチャラティは腑に落ちない表情で私の隣に腰を下ろした。
「……ごめんね、わざわざ付き合わせて」
「いや、俺の方こそ邪魔して悪かったな」
「そんなことないよ!」
私はブチャラティが持ってきてくれたサンドイッチに手を伸ばす。
「いただきます……これ美味しいね!」
「そうか、よかった」
そう言うとブチャラティは黙りこんでしまった。どきどきしながら何を話そうかと悩んでいると、「さっきは楽しそうだったな」と呟いた。
「そ、そうかな」
「ミスタと付き合ってるのか?」
「え?!」
「楽しそうな声が聞こえていたぞ。……お似合いだと思う」
「……」
そんなことを言われるとは思わなかった。それもよりによって、片想いをしている相手に。そういうんじゃないのに間違われたことが悲しくてだんだん視界が滲んできた。
「っ、名前、傷が痛むのか?」
「ちがうの……私が好きなのはブチャラティだよ」
ああ、とうとう言ってしまった。ふられてしまったら明日から気まずいな、とマイナスなことで頭がいっぱいになっていると、身体を抱きよせられた。
「悪かった」
「ブチャラティ?」
「俺も名前のことが好きだ」
「……本当に?」
「ああ、さっきミスタと楽しそうにしている姿を見て付き合ってるのかと思っていた」
「ミスタには話を聞いてもらっていたの……ブチャラティのことで」
「嬉しいよ」
ブチャラティは私の涙を拭い、頬に手を添えた。
「見ないで、泣き顔見られたくない……」
「かわいいけどな」
そう言うと再び私の身体を抱き締めて頭を優しく撫でられ胸がいっぱいになった。