Insomnia

砂漠の夜は静かだ。世界にはこの6人しかいないような気にさせられる。
皆が寝袋に入った後、1人で見張りをしていると名前がもぞもぞと動き寝袋から起きてきた。

「どうした?体調でも悪いのか?」
「なかなか眠れなくて……隣失礼します」
「ああ」

そう言うと名前は焚き火に向かうようにして私の隣に腰を下ろした。側にある毛布を手繰りよせて肩からすっぽり身体を覆う。

「寒いか?」
「もう大丈夫です」

名前の小さな声が静寂の中へ消えていった。ジョースターさんたちはすでに夢の中だ。名前は膝の上に顎を乗せてぼんやりと焚き火を眺めている。
眠れないのは気持ちが昂っているからだろうにそれを口に出そうとはしない。そういうところを見ていると心配になる。

「あ、」
「どうした?」
「星、綺麗ですね」
「そうだな」
「日本じゃこんなにたくさんの星は見れなかったなあ……」

感慨深げに呟いた名前は、目をきらきらさせて夜空を眺めている。炎の明かりを映している瞳は星が散りばめられているように見えた。

「エジプトはどうですか?」
「郊外に出ればそれなりに星が見れる。砂漠はここと同じくらいだな」
「いいですね」

ふと、一緒に星を見られるのはあと何回だろうかと考えた。旅が終われば別れが訪れる。元いた国、土地に帰り旅が始まるまでと同じような生活に戻るのだろう。

別れなど何回も経験してきたはずだがひどく口惜しい気持ちにさせられる。これほど濃密な時間を過ごす機会は2度とないだろう。命懸けで、仲間と国境を越え、エジプトを目指す。自分の身に起こったこととは思えない話だ。

別れを惜しませる原因のひとつは名前だ。過酷な状況の中でも挫けず、嘆くでもなく乗り越えている姿には言葉でうまく言い表すことができないが、惹かれるものがある。

……この横顔をもう少し見つめていたい。

「どうしたんですか?」
「……少し、考えごとをな」

心配そうな瞳がこちらをのぞきこむ。

「大丈夫だ……名前は」
「はい?」
「旅が終わったら何をする?」
「そうですね……お風呂にゆっくり浸かりたいですね」
「はは、切実だな」
「それから、この旅が終わってもアヴドゥルさんたちとまた会えたらなって思います」

名前の心の中に少しでも自分の存在が感じとれ、そのことが充足感をもたらした。

「そうか」

***

話しているうちに眠気におそわれたようで、私の左肩に凭れて眠っている。起こす気にもなれず肩にかける毛布を1枚増やした。

「そういう関係だったとはな」
「ジョースターさん!?」

思わず声をあげるとジョースターさんは唇に人差し指を押し当てた。折角眠った名前が起きてしまう。

「いつから起きてたんですか?」
「さっきじゃよ」

いたずらっ子のような笑みを浮かべる目の前の男は相変わらず読めない。

「俺と名前とは、何も……」
「本当かのう?」
「からかわないでください」
「冗談じゃ」

ジョースターさんの名前を見つめる視線は温かい。

「……みんなには本当に感謝している。ホリィのためにここまで着いてきてくれたことに」
「そんな、私はただ着いてきただけです」
「名前も同じようなことを言っていた。"私がしたくてしていることです"とな」
「……」
「そうは言ってもじゃ。ここまで命を懸けて同行してくれる人は滅多にいるもんじゃあない。本当に感謝している。ありがとう」
「ジョースターさん……」
「それじゃあわしも眠るかの。交代にはまだ時間があるからの」

寝袋に入り横になったジョースターさんにおやすみなさい、と声をかけた。

bkm