いよいよ典明との結婚式が明日に迫った。既に準備は整い、独身最後の日だ。とはいえ、もう一緒に暮らしているのだから生活は結婚しても変わらないだろう。
いつものように眠る少し前に、典明はココアの入ったマグカップを私に差し出す。
「ありがとう」
「いよいよ明日だね」
「うん……」
「緊張してる?」
「それもあるけど……ちょっと旅のことを思い出してたの」
海の中や灼熱の砂漠、様々な国を渡り歩いた50日間を。短い間だけどあんなに濃い時間を過ごしたのは初めてだった。
「あの旅がなかったらきっと君たちに会わずに今もひとりだったかもしれないな。同行して良かったと本当に思ってるよ」
「私も旅に出て良かった。大変だったけど楽しいこともたくさんあったし、それに典明に会えた」
「嬉しいな」
私は表情を見られないように典明に抱きついた。
「……典明がDIOに傷つけられたとき、死んじゃうかと思った」
「僕も死ぬかと思ったよ」
典明は傷のある場所を服の上からそっと押さえる。あの時、大切な人が目の前で血を流して倒れているのが恐くて堪らなかった。お腹に空いた大きな穴。旅の中ではあまり思い出したくない記憶だ。
「目が覚めた時、あんなに泣いてる名前を見て驚いたけど嬉しかったんだ。こんなに僕を思ってくれてる人が近くに居たんだなって」
「私はすごく心配してたのに……」
「ごめんごめん。……でもやっぱり泣き顔よりも笑顔でいてくれる方がいいな」
典明が私を抱きしめ返す。 旅の時から頼もしいと感じていた胸板に頭を押し付けた。
「明日からも側にいてほしい」
「もちろん。嫌だって言っても側にいるから」
冗談めかして言うと典明も微笑み返した。
典明の大きな手が私の頬を包む。私は反射的に目を閉じると優しく触れるだけのキスが落とされた。
「明日になればみんなに会えるね。久しぶりだから楽しみだなあ」
「ああ、そろそろ寝ようか」
「寝れるかなあ……」
「眠れなくても横になるだけで違うさ」
「ん」
心配していたが杞憂だったようで典明に抱きしめられていたら心地よくてあっという間に寝入ってしまった。次の日にからかわれるほどに。