鯛焼き(カーズ)

カーズさんが買い物に付き添ってくれた。晩ごはんの買い物を済ませて買い物袋を持とうとすると、横から手が伸びてくる。

「あ、」
「早く行くぞ」
「ありがとうございます」

変わりに袋を持って私の前を歩く。結構買ったはずなのに軽々と運ぶなあ、と思っているとカーズさんの足が止まった。

「名前、あれは何だ?」

カーズさんの視線を追うと鯛焼き屋さんがあった。

「鯛焼き屋さんですよ」
「それはなんだ?」
「買ってくるので待っててください」

私は鯛焼きを2つ買って1つをカーズさんに渡す。

「本物の魚ではないのだな」
「ええ、お菓子ですよ。中にあんこが入ってます」

カーズさんが繁々と眺めた後、無言で咀嚼する。どうやら気に入ったらしい。私も鯛焼きを食べるのは久しぶりだ。

「美味しかったー……んっ?」

カーズさんの手が伸びてきて優しく私の口元を拭う。

「あんこがついてたぞ」

なんてこともなさそうに掬ったあんこをぺろりと舐めとる。カーズさんだし他意はないのだろうが、突然の行動に頬が熱くなる。

「どうした?」
「な、何でもないです。みんなが晩ごはん待ってますから早く帰りましょう」

カーズさんの背中をぐいぐい押しながら帰路についた。

bkm