飲み会ですっかり遅くなってしまった。時計の針は24時をとっくに回っている。ほとんどの住人たちはもう寝ているだろうと思いそっと戸を開ける。暗くて姿ははっきり見えないが、部屋は静かだ。
急に後ろから肩を掴まれて振り向かされる。すると吉良さんが立っていた。
「随分帰るのが遅かったね」
口調は丁寧だが声のトーンが低い。そもそも機嫌の悪い理由がわからない。今日は飲み会だと連絡したはずだ。
「ちゃんと連絡したはずですが……それにみなさんだって夜に出歩いているじゃないですか。それで怒られる理由が、っ、」
吉良さんは戸を閉めると私を廊下の壁に押し付けた。酒が回っているせいか、怖いせいか、心臓がうるさい。
「歩いて帰って来ただろう。酒を飲んで普段よりも動きが鈍っているのに、もし何かあったらどうするんだ?危ないとは思わないのか?」
「ごめんなさ、」
「もし、こんなことをされたらどうするんだ?」
「え?」
私の着ていたブラウスの釦を外していく。
「吉良さん、やめてください……っ!」
手首に触れると振り払われる。
「君の力じゃ僕には勝てないよ」
身体が動かない。その間も吉良さんの動きは止まらない。
「もういいだろう。名前が怯えている」
吉良さんの手を掴んだのはカーズさんだった。吉良さんもはっとした顔から傷付いた表情に変わった。
「すまない」
私に手が伸びてくる。怖くて反射的に目を瞑った。
「っあ、……」
「……先に戻るよ」
吉良さんは戸の向こうに姿を消した。吉良さんを傷付けてしまった。申し訳なさになかなか涙が止まらなかった。