「ねぇ、ママ。これなんて読むの?」
「これは"ざしきわらし"って読むのよ」
「ざしきわらし?」
「そうよ、この子がいると家に幸せなことが起こるの」
ママが本に載っている和服の女の子を指差しながら言った。
「僕の家にもいるのかな?」
「どうかしら……ママには見えないけど承太郎には見えるかもしれないわね」
***
とん、とん、と何かが落ちる音が聞こえる。ママは買い物に行ってるし、パパは外国でお仕事だ。もし泥棒だったら僕がこの家を守らなくちゃ。
おもちゃ箱の中のバットを取って音のする場所に向かう。えんがわから音が聞こえる。戸をあけてすぐにバットを振りかざすと、そこには同い年くらいの女の子が綺麗なボールをついていた。
着物を着ている女の子はどこが見覚えがあった。そうだ。あの本にのっていた、ざしきわらしにそっくりだ。
「君は、ざしきわらし?」
「名前」
「え?」
「私の名前だよ。君は何ていうの?」
「僕はじょうたろう」
「じょうたろう、よろしくね!」
にこにこしている名前を見てざしきわらしかどうかなんて気にならなくなった。同い年くらいの女の子にしか見えない。
「ねえ、遊ぼう!」
「じゃあ、かくれんぼしようよ。じょうたろうが鬼ね」
名前はすぐさま廊下を駆けていく。
「30数えたら来てね!」
声がだんだん遠ざかっていった。
30数えて名前を探す。さっきあっちに走って行ったはずだ。和室を開けると、しんとしている。ここじゃないのかな。
よく見ると押し入れの戸の前に置いてある座椅子がずれている。
押し入れを開けると名前が小さく丸まって座っていた。
「見つかっちゃったー。かくれんぼ得意なのに」
名前が頬をふくらませている。
「だって座椅子の位置がおかしいもん。今度は名前が鬼だよ」
「……わたし、もう行かなきゃ」
「もう帰っちゃうの?」
「ごめんね。ねぇ、これあげる」
大切そうに持っていた綺麗なボールを僕に渡す。
「いいの?」
「いいの、今度会った時はこれで遊ぼうね。遊んでくれてありがとう」
そう言うと名前はだんだん透明になって消えてしまった。
「承太郎、ただいまー……あら、その綺麗な鞠はどうしたの?」
「ともだちに貰ったの」
「お友達は?」
「もう、帰っちゃった」
「そう……。今度来たらママにも会わせてね」
「うん!」
また、会いたいな。僕は綺麗なボールを抱きしめた。