吉良さんと一緒に晩ごはんを作っていたときのことだ。
「吉良さん、人参はどうやって切ればいいんですか?」
「ああ、それは拍子木切りにしてくれ」
「?」
「こうするんだ」
吉良さんが私の後ろに回ったかと思うと私の両手に手を添える。
「あ、あの」
「余所見をするのは危ないよ。……こうやって切るんだ」
「……ありがとうございます」
「少し手が乾燥しているね。後でハンドクリームを塗ってあげるよ」
そう言うと吉良さんは手際よくご飯作りに取り掛かる。重度の手フェチさえなければ何でもそつなくこなせるかっこいい人なのに。残念なイケメンというやつだな、なんて思っていると背後から足音が聞こえてきた。
「名前」
「カーズさん、どうしたんですか?」
「手伝ってやる」
「じゃあこの人参を切ってください」
「どうやって切るのだ?」
私はさっきの吉良さんのように横からカーズさんの手の上に自分の手を重ねる。
「名前」
「なんですか?」
「吉良が名前にしたようにやるのだ」
「無理ですね」
「っ!なぜだ?!」
「私の方が背が低いのでカーズさんの背中しか見えません」
「……」