吸血鬼(花京院)

喉が乾く、吸血鬼になってしまった私は血を欲していた。そんな異変に気付いたのは花京院だった。

「さっきから様子がおかしくないか」
「そ、そんなことないよ。ちょっと疲れたみたい」
「疲れたって顔じゃあないな」

やはり花京院は鋭い。

「言わないなら、」

だんだん花京院が迫ってくる。こんなに近付かれると吸血衝動が抑えられなくなりそうだ。まずい。

「言う!言うから、それ以上近付かないで………………吸血鬼になったみたい」
「え?」
「だから吸血鬼になったみたい」
「吸血鬼って血が主食だけど、名前もそうなのか?」
「……」
「僕の血、飲みなよ。辛いだろ」
「いい、要らない。そのうち元に戻るだろうから」
「そんな辛そうな顔しるのにか?ほら」

花京院が指を差し出してくる。そんな飢えた犬の前で肉をちらつかせるような真似は止めて欲しい。

「遠慮しなくていい」
「要らない」

私は顔を伏せた。これ以上手を見ていたら、我慢できる自信がなかったのだ。

「っ、」

花京院がため息を吐いたかと思うと、いきなり私の咥内に指が押し入ってくる。花京院が私の口に指を入れたのだ。私は抵抗しようと花京院の腕を抑えたが、花京院の力には叶わない。今度は頭を引こうとしたが行動を読まれ、もう片方の手で抑えつけられた。離してほしい、そう目で訴えたが花京院の手が弛められることはない。歯を立てれば、花京院は指を口から離してくれるだろうか。だが今歯を立てたら絶対に吸血を止められないだろう。花京院の手の血管が脈打っているのが舌の感触で伝わってくる。……血が、欲しい。気がつくと花京院の手に牙を立て、流れる血を舐めとっていた。口の中が血の味でいっぱいになる。幸福感で満たされていく感じがした。夢中になって花京院の血を舐めた。

「っ、」








僕は普段の表情とは異なる名前の顔に胸が高鳴った。名前はただ食事のために僕の指を舐めているだけだ。だが手を舐めている時の顔が、眉が少し下がり申し訳なさそうな顔をしている。実際血を求めることに抵抗があるようだが、血を欲することはやめられない。その心が揺れている姿が今の名前の表情に表れている。普段は、冷静で感情をあまり外に出さない名前から、こんな表情を引き出しているのが僕だと思うと興奮した。

「っ、」
「すまない、花京院」
「気にするな、僕が無理に飲ませたようなものだ」

血を飲ませてもお釣りがくるほど貴重な表情が見えた。それだけで僕はこの薬を飲ませたかいはあったと思った。



bkm